クロスボーダーM&A 完全ガイド 進め方・期間・アドバイザー費用編【2026年版】
本記事の内容は、弊社が所属するGPCグループ(株式会社グローバル・パートナーズ・コンサルティング)が関東経済産業局の委託を受けて実施した「中堅・中小企業のための海外M&A事例集(2026年版)」における企業ヒアリングや現地専門家への取材で得られた知見を一部反映しています。
1. 海外M&Aの全体の流れ
レコフデータの集計によると、2025年(暦年)に日本企業が関わったM&Aは5,115件で過去最多となりました。このうち日本企業による海外企業の買収(IN-OUT)は657件で前年比1.2%減、金額は18.2兆円で87.2%増です(出典:MARR「2025年のM&A回顧」)。件数は横ばいのなか金額が大きく伸びており、大型案件が全体を押し上げた形です。海外企業の買収の一般的な流れは次のとおりです。
- 買収の目的と方針を決める海外で何を手に入れたいのか(販路、技術、人材、生産拠点など)と、投資額の上限、対象国・業種の条件を決めます。
- 候補先を選ぶ条件に合う会社を幅広く洗い出し(ロングリスト)、優先順位を付けて絞り込みます(ショートリスト)。
- 打診し、秘密保持契約を結ぶ候補先に買収や出資の意向を伝え、秘密保持契約(NDA)を結んで資料の開示を受けます。
- 初期検討と企業価値の試算開示資料をもとに事業と財務を確認し、価格の目安を試算します。考え方は企業価値算定 完全ガイドで解説しています。
- 意向表明・基本合意価格の目安、スキーム、スケジュール、独占交渉期間などを基本合意書(LOI・MOU)にまとめます。
- デューデリジェンス(DD)財務・税務・法務・事業などを調査し、価格や契約に反映すべき論点を洗い出します。海外DDの費用・期間・進め方もあわせてご覧ください。
- 最終契約の交渉と署名DDの結果を踏まえて株式譲渡契約(SPA)を交渉し、署名します。条項の考え方は最終契約(SPA)実務編で解説しています。
- 承認の取得とクロージング外資規制や競争法上の承認・届出など前提条件を満たしたうえで、代金を支払い、株式の移転を受けます。
- PMI(買収後の統合)経営体制、管理の仕組み、業務の統合を進めます。詳しくはPMI編をご覧ください。
2. 期間の目安と、海外案件が長引く理由
期間は案件によって大きく異なりますが、候補先の検討から基本合意までに数か月、DDから最終契約・クロージングまでにさらに数か月かかるのが一般的です。全体で1年前後かかることも珍しくありません。海外案件では、国内のM&Aに比べて次のような理由で期間が延びやすくなります。
- 規制当局の承認・届出:外資規制にもとづく登録・許可や、競争法上の企業結合の届出が必要な場合、その審査期間がかかります。国ごとの概要は買収ストラクチャー編で整理しています。
- 資料の整備:対象会社の決算や契約書が整っておらず、DDに必要な資料の準備に時間がかかることがあります。
- 言語と商習慣:英語・現地語の資料の確認や、意思決定の進め方の違いに時間がかかります。
- オーナーの意思決定:家族経営の会社では、親族の合意形成に時間がかかることがあります。
- 送金・口座の手続:代金の送金や受取口座の開設、外貨規制の手続が必要になります。
海外M&Aの進め方で日本企業がつまずきやすい点は、海外M&A最前線でも、経済産業省の事例集の調査をもとに紹介しています。
3. FA(ファイナンシャル・アドバイザー)と仲介の違い
| 項目 | FA(ファイナンシャル・アドバイザー) | 仲介 |
|---|---|---|
| 立場 | 買い手または売り手の一方の代理人として助言する | 売り手と買い手の間に立ち、双方と契約する |
| 報酬 | 依頼者からのみ受け取る | 売り手・買い手の双方から受け取ることが多い |
| 利益相反 | 依頼者の利益を最大化する立場で、利益相反が生じにくい | 双方の利益が対立する場面(価格など)で利益相反が生じうる |
| 向いているケース | 価格や条件の交渉が重要な案件、大型・複雑な案件、クロスボーダー案件 | 小規模な案件で、当事者間の調整を重視する場合 |
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月公表)は、仲介者・FAに対し、提供する業務の内容と手数料について中小企業への説明を求め、仲介者に禁止される利益相反の行為を具体化しています。海外M&Aでは、売り手側に現地のアドバイザーが付くことも多く、買い手の立場で交渉を支えるFAを立てる意義は大きいといえます。
4. アドバイザー報酬の体系と一般的な相場
M&Aのアドバイザー報酬は、次の組み合わせで構成されるのが一般的です。
| 報酬の種類 | 支払時期 | 内容 |
|---|---|---|
| 着手金 | 契約時 | 業務の開始にあたって支払う固定の報酬。設けない事業者もある |
| 月額報酬(リテイナー) | 毎月 | 検討期間中の作業に対して支払う定額の報酬 |
| 中間金 | 基本合意時など | 案件の進捗に応じて支払う報酬。成功報酬の一部に充当されることもある |
| 成功報酬 | クロージング時 | 取引が成立した場合に支払う報酬。レーマン方式で計算することが多い |
レーマン方式と「基準となる価額」
レーマン方式は、取引の金額が大きくなるほど料率が下がる段階的な計算方法です。料率の区分は事業者によって異なりますが、一般的な例は次のとおりです。
| 基準となる価額のうち | 料率(一般的な例) |
|---|---|
| 5億円以下の部分 | 5% |
| 5億円超10億円以下の部分 | 4% |
| 10億円超50億円以下の部分 | 3% |
| 50億円超100億円以下の部分 | 2% |
| 100億円超の部分 | 1% |
注意したいのは、料率を掛ける基準となる価額です。株式の譲渡価額(株式価値)、株式価値に有利子負債を加えた企業価値、株式価値に負債を加えた移動総資産など、どれを使うかで報酬額は大きく変わります。たとえば上の料率で、株式価値10億円の案件なら成功報酬は4,500万円(5億円×5%+5億円×4%)ですが、同じ案件で移動総資産15億円を基準にすると6,000万円(4,500万円+5億円×3%)になります。
中小M&Aガイドライン(第3版)も、仲介者・FAの手数料はレーマン方式が多いこと、基準となる価額の考え方によって報酬額が大きく変わるため、考え方と金額の目安を確認することが重要であることを示しています。また、最低手数料を設けている事業者が多く、中小企業庁のM&A支援機関登録制度のデータベースでは、最低手数料の水準や報酬の基準となる価額の種類で事業者を検索できます。
海外案件で加わる費用
クロスボーダーM&Aでは、上記に加えて、現地のアドバイザーや法律事務所の費用、翻訳・通訳の費用、出張旅費などがかかります。見積りを比較するときは、何が報酬に含まれ、何が実費として別途かかるのかを確認しましょう。
5. DD・法務・税務など専門家の費用
アドバイザー報酬とは別に、各分野の専門家の費用がかかります。費用は調査範囲、対象会社の規模、対象国の数、資料の整備状況などで大きく変わります。
| 業務 | 主な内容 | 費用が変わる主な要因 |
|---|---|---|
| 財務・税務DD | 正常収益力、純有利子負債、運転資本、税務リスクの調査 | 拠点数、決算の整備状況、調査範囲。詳しくは海外DDの費用・期間・進め方 |
| 法務DD | 会社の設立・株式、重要な契約、許認可、訴訟、労務の調査(通常は現地の法律事務所) | 契約の数、許認可の種類、言語 |
| ビジネスDD | 市場、競合、事業計画の妥当性の検証 | 市場調査の深さ、インタビューの数 |
| 人事・IT DD | 人事制度・キーパーソン、システムの調査 | 従業員数、システムの複雑さ |
| バリュエーション | 企業価値・株式価値の算定 | 算定方法、事業計画の精査の程度 |
| 契約書の作成・レビュー | 基本合意書、SPA、株主間契約 | 交渉の回数、論点の多さ |
| PPA(取得原価の配分) | 買収後の会計のための資産・負債と無形資産の評価 | 無形資産の種類、監査法人との協議。詳しくは買収後の会計(PPA・のれん・減損)編 |
費用を抑えたい場合は、重要な論点に絞ったDDから始める方法もあります。レッドフラッグDD・セルサイドDD編をご覧ください。
6. 補助金を使うときの注意点
中小企業庁の「事業承継・M&A補助金」の専門家活用枠では、DDや仲介手数料などの専門家費用が補助の対象になります。16次公募の申請期間は2026年10月2日から11月6日までです。海外M&Aで活用を考える場合は、次の点に注意してください。
- DDは要件:買い手支援類型では、DDの実施が申請の要件です。
- DD費用の上乗せは申請した場合:DD費用を補助対象経費として申請する場合は、通常の上限600万円に、DD費用について最大200万円が上乗せされます。DDを行えば自動で加算されるわけではありません。
- 表明保証保険料も対象:表明保証保険の保険料も補助対象経費とされています。買い手支援類型では、買い手が手配する保険が対象です。
- 海外企業の買収は事前に確認:100億企業特例については、日本国内で補助事業を実施することが要件とされています。通常の買い手支援類型における海外企業の買収の扱いは、公募要領上必ずしも明確ではありません。海外の対象会社の株式取得、海外事業の譲受け、現地でのDD費用などが対象となるかは、申請前に事務局へ確認してください。
補助金の要件は公募の回ごとに変わります。申請の前には、必ず最新の公募要領を確認してください。
7. アドバイザーの選び方
- 対象国での実績と現地のネットワーク対象国での案件の経験と、現地の法律事務所・会計事務所との連携体制を確認します。
- 報酬体系の説明が明確か基準となる価額、最低報酬額、実費の範囲を、見積りの段階で明示してもらいます。
- 立場と利益相反買い手の代理人(FA)か、双方の仲介か。誰から報酬を受け取るのかを確認します。
- 財務・税務・会計まで踏み込めるか海外M&Aの失敗の多くは、DDでの見落としや、買収後の会計・税務の想定違いから生じます。DD、価格、契約、買収後の会計までを一貫して理解しているかが重要です。
- 買収後まで支援できるかクロージング後のPMIまで見すえた助言ができるかを確認します。
報酬の見積りを比べるとき、成功報酬の料率だけを見るのは危険です。基準となる価額の違い、最低報酬額、月額報酬の有無、現地専門家の費用が含まれているかによって、最終的な支払総額は大きく変わります。また、安い見積りでもDDの範囲が狭ければ、買収後に想定外の負担が生じるおそれがあります。総額と業務の範囲をセットで比較することをおすすめします。
8. よくある質問
GGAの支援事例
本記事のテーマに関連する、GGAの支援事例をご紹介します(開示可能な事例を抜粋)。
リックソフト株式会社(東証グロース:4429)による、シンガポールのITコンサルティング会社Information Officer Pte. Ltd.の発行済株式39%の取得において、買手・売手双方のファイナンシャル・アドバイザーとして、シンガポール・米国を含む買収ストラクチャーの構築、財務・税務・法務デューデリジェンスとバリュエーションの調整、取締役会の投資判断の支援、株式譲渡契約書・株主間契約書の作成と交渉(日英)、クロージング手続、PMIに関する助言までを支援しました。
リックソフト株式会社(東証グロース:4429)による、BiPlus Vietnam Software Solutions Joint Stock Company(ベトナム・ハノイ)の買収において、GPCグループ(GPC・GGA・GGV)として、企業価値算定、財務・税務・人事デューデリジェンス、買収ストラクチャーの構築を支援しました。
国分グループによるシンガポールの食品卸売会社San Sesan Global社の株式取得において、San Sesan Global社側の売手アドバイザーとして、クロスボーダーM&Aのアドバイスと実行支援を提供しました。
表明保証・補償・価格調整・アーンアウト。DDの発見事項を契約に落とし込む対応表つき。
Read More →直接買収とシンガポール持株会社経由の比較。税制・外資規制・売却時の課税まで。
Read More →出資比率ごとの権利、株主間契約、段階取得、持分法、出口の設計。
Read More →PPA、のれんの償却と減損、在外子会社ののれんの換算、2026年の最新動向。
Read More →正常収益力・ネットデット・運転資本・税務リスクの見方と、DD結果を価格・契約に反映する方法。
Read More →DD費用を左右する要素、標準的なスケジュール、依頼前に準備する資料。
Read More →二重帳簿・関連当事者取引・源泉税の未納など、東南アジアのDDで見つかる8つのモデルケース。
Read More →株式譲渡課税・間接税・更正期間など、6カ国の税務DDの論点を横断比較。
Read More →中堅・中小の海外M&Aで費用を抑えるDDの選択肢と、その限界。
Read More →DDの全体像、クロスボーダー特有のリスク、実施手順。
Read More →GGAは、シンガポールを拠点に東南アジア全域のクロスボーダーM&Aを支援しています。
アドバイザー報酬やDDの費用は、案件の規模・対象国・スキームに応じて個別にお見積りします。
日本の公認会計士が、候補先の検討からDD、最終契約、PMIまで一貫してサポートします。
関東経済産業局の委託調査「海外M&A事例集(2026年版)」を担当したチームが対応します。
(注)本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件への助言ではありません。税制・規制は頻繁に改正されるため、実際の検討にあたっては最新情報をご確認のうえ専門家にご相談ください。記載内容は2026年10月時点の情報に基づきます。
(注)上記記述は、その内容を弊社が保証するものではありません。詳細、最新情報は弊社までお問い合わせください。
監修:クロスボーダーM&Aアドバイザリー部門

