海外M&A最前線 メリット・リスク・PMIを徹底解説|経済産業省 海外M&A事例集 調査グループ
海外M&A最前線 ― メリット・リスク・成功の分岐点を現場目線で徹底解説
【2026年版】
海外M&Aは、案件が成立すること自体よりも、買収後に事業が安定的に回り、継続的に成果を生み出せるかどうかが重要であり、その成否は事前の検討や準備の積み重ねに大きく左右されます。本記事では、シンガポール拠点の海外M&Aアドバイザリー部門が、日々の実務で得た知見に加え、弊社が所属するGPCグループが経済産業省(関東経済産業局)の委託を受けて実施した中堅・中小企業への調査から得られた実践的な示唆をもとに完全解説します。
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1. 海外M&A(クロスボーダーM&A)とは
海外M&A(Cross-border M&A / クロスボーダーM&A)とは、国境を越えて行う合併や買収のことです。日本企業が海外企業を買収するIn-Out型、海外企業が日本企業を買収するOut-In型がありますが、本記事では主に日本企業による海外企業の買収(In-Out型の海外M&A)について解説します。
海外M&Aは、企業が国際市場において成長を追求し、競争力を強化するための戦略的手段として広く活用されています。国内市場の成熟化や人口減少に伴う需要低迷が顕著である中で、上場企業のみならず、中堅・中小企業においても海外M&Aへの関心が急速に高まっています。
海外M&A市場の最新動向
日本企業による海外M&A件数は年々増加傾向にあります。中堅・中小企業(従業員2,000人以下)においても、2024年には前年比約40%増の139件に達しており、海外M&Aへの意欲が一段と高まっていることがうかがえます。弊社が所属するGPCグループ(株式会社グローバル・パートナーズ・コンサルティング)が関東経済産業局の委託を受けて実施した中堅・中小企業へのヒアリング調査でも、「国内市場の縮小を見据えた成長戦略としての海外M&A」を検討・実行する企業が増えている傾向が確認されています。
対象国別では、米国が全体の約30%を占める最大の買収先であり、アジア地域ではシンガポール、インド、ベトナムなど複数国が上位に入り、成長市場を中心に投資が分散する構造が見受けられます。中堅・中小企業においては、全体を通してアジア向けの海外M&Aが圧倒的に多いという傾向があります。
海外M&Aの類型
海外M&Aにはいくつかの類型がありますが、中堅・中小企業の事例を見ると、既存事業との親和性が高い水平型M&Aが選択されるケースが多く見られます。限られた経営資源の中でシナジーを描きやすく、買収後の運営イメージを具体化しやすいことが理由の一つです。
海外M&Aの最大の意義は、海外市場にできるだけ早く、かつ確実に入り込むことにある「時間を買う」という点にあります。自社単独でゼロから海外拠点を立ち上げる場合と比較して、現地でのビジネス経験・顧客基盤・人材を一体的に取得できるため、スピード感をもった海外展開が可能となります。
2. 海外M&Aの戦略的意義と主な目的
海外M&Aは単なる売上拡大策ではありません。弊社がこれまで支援してきた案件を振り返ると、企業の持続的成長と人材育成を同時に実現する手段として海外M&Aを位置づけている企業ほど、買収後の成果につながっています。海外M&Aに期待される主な効果は以下の通りです。
① 新興市場への参入による売上拡大
ASEANをはじめとする成長市場において、すでに顧客基盤や事業基盤を有する企業を譲り受けることで、ゼロから顧客を開拓する必要がなく、短期間かつ一定の確度を持って市場参入や事業拡大を進めることが可能になります。特に、現地企業の流通網や顧客基盤を迅速に活用することで、効果的に市場シェアを拡大できます。
② 技術・人材・ブランド・販路の獲得
海外企業が保有する独自技術や専門人材、地域に根差したブランドや販路を取り込むことで、時間をかけなければ築けない経営資源に一気にアクセスできます。海外M&Aにより、先進的な技術、ブランド力、経営ノウハウなどを取り込むことで、国内市場での競争優位性の確保・差別化にもつながります。
③ 海外人材・拠点の獲得と人材育成
昨今の人手不足や人件費の高騰により、企業の人材確保は年々困難になっています。海外M&Aにより海外の優秀な人材や人員の確保が可能となるだけでなく、海外拠点の立ち上げや海外子会社の経営・マネジメントへの参画は、社員にとって大きな成長機会となります。
弊社のクライアント企業の中にも、「海外子会社の経営に関わることで、国内では得られない経験と視座を社員に提供したい」という動機で海外M&Aに踏み切った経営者が複数います。海外拠点の運営を通じた人材育成効果は、財務的なリターン以上に経営者が重視するポイントの一つです。
④ リスク分散と収益安定化
海外M&Aによって事業展開を各地域に分散することが可能となり、特定市場での経済変動や政治リスクの影響を軽減できます。異なる市場での収益を組み合わせることで、企業全体のリスクを分散し、収益の安定化を図ることが可能です。
弊社がアドバイザリーを行う中で、初回の相談時に必ずお伺いするのが「なぜ海外M&Aなのか」「自前での進出ではなぜダメなのか」という問いです。ここが明確に言語化できていない企業ほど、案件探索の段階で条件が拡散し、結果的に「何となく良さそうな会社」に飛びついてしまうケースが散見されます。
海外展開の手段は、輸出・代理店活用・現地法人設立・業務提携など複数あります。海外M&Aはあくまで手段の一つであり、「自社が3〜5年後にどうなっていたいか」から逆算して、M&Aがベストな手段かどうかを検証することが出発点です。
3. 海外M&Aに伴う課題とリスク
海外M&Aはその複雑性から、国内M&Aとは異なる特有のリスクが存在します。これらのリスクを十分に認識しないまま案件を進めてしまうと、買収自体は成立したものの、期待した成果につながらないケースも少なくありません。
海外M&Aにおける失敗の3類型
海外M&Aの失敗は大きく以下の3つに分類されます。
リスク①:文化・商慣習・価値観の違いによるPMIリスク
国・地域によって、意思決定のスピード感、報酬に対する期待値、上司と部下の関係性、仕事とプライベートの線引きは大きく異なります。日本企業が無意識に前提としている「空気を読む」コミュニケーションは、海外拠点では機能しません。指示や期待は明文化し、合意事項は必ず書面に残すことが、クロスボーダーPMIの基本動作です。
特に注意:弊社が支援する案件で繰り返し見られるのが、「良かれと思って」日本の業務フローや評価制度を持ち込んだ結果、現地の優秀な人材が離職するパターンです。特に東南アジアでは、成果に対する即時的な報酬やキャリアの見通しを重視する傾向が強く、日本式の年功的な運用とのギャップがPMI初期に顕在化しやすいため注意が必要です。
リスク②:カントリーリスク(制度・政治・経済環境の変動)
政権交代や規制変更、外資規制、為替変動、資本移動制限等は、個別企業の努力では制御できず、バリュエーションや撤退可能性そのものを左右します。海外M&Aでは企業単体の分析にとどまらず、「どの国で、どの事業を、どの構造で持つのか」という視点から、事前にリスクを織り込み、取引条件やガバナンス設計で耐性を持たせることが重要です。
外資規制の調査も不可欠です。対象国および対象業種によっては株式の過半数保有が制限されているケースもあり、事前のリサーチが必要です。
リスク③:為替変動による価値・回収リスク
契約締結からクロージングまでのレート変動や、収益通貨と調達通貨のミスマッチは、当初想定していた投資条件を大きく変えてしまう可能性があります。取引通貨の選定、価格調整条項、ファイナンス構成、ヘッジ方針を初期段階から設計し、為替変動を「後から調整するもの」ではなく「前提として織り込む」ことが重要です。
リスク④:情報の非対称性
海外M&Aでは、売り手が把握している情報と買い手がアクセスできる情報に構造的なギャップがあります。弊社がベトナムやインドネシアで案件を扱う際には、売り手提出資料だけでなく、現地の業界関係者・取引先・金融機関など複数の情報ソースからの裏取りを徹底しています。特に新興国では、提出された財務データの信頼性そのものを検証するプロセスが不可欠です。
リスク⑤:ガバナンス・管理体制の構築不足
海外拠点では距離・言語・時差の制約から、日常的な状況把握が難しくなりがちです。財務管理、内部統制、コンプライアンス体制が不十分なまま運営を任せてしまうと、小さな違和感が見過ごされ、後になって不正や想定外の損失として表面化するリスクが高まります。
4. 海外M&Aのプロセス ― 戦略策定からPMIまで
海外M&Aは、買収の成立をゴールとせず、戦略の整理から買収後のPMIまでを一続きのプロセスとして設計する必要があります。弊社では、各ステップで発見した懸念事項を「論点リスト」として文書化し、次の工程へ確実に引き継ぐ運用を推奨しています。初期段階の小さな違和感を放置することが、買収後の大きな問題につながるケースは少なくありません。
最初に確認すべきは「なぜ、このタイミングで海外に出るのか」という点です。ここが曖昧なままでは、後の段階で判断基準が揺れ、提示される案件の魅力に引きずられやすくなります。海外売上を伸ばしたいのか、生産拠点を確保したいのか、技術・人材を獲得したいのかによって、買収対象に求める条件は大きく変わります。
また、実務上は「やらない条件」をあらかじめ決めておくことが重要です。魅力的に見える案件ほど「せっかくここまで来たのだから」と判断を続けてしまいがちで、心理的な撤退が難しくなります。重大な法令違反の疑い、説明と資料の不整合、特定人物への過度な依存などを事前に整理しておくことが、冷静な判断の拠り所となります。
候補企業を探す段階では、「どこから情報を得るか」に加えて「その情報をどのように裏取りするか」が重要です。仲介会社やFAは案件情報を集めるうえで有用ですが、提示される情報が売り手側の説明を前提として整理されている場合も少なくありません。
探索段階で生じた違和感(顧客が特定数社に偏っていないか、利益率が不自然に高くないか、キーパーソンが退いたらどうなるか等)は、後の交渉やデューデリジェンスで必ず確認すべき論点として引き継ぐことが有効です。
初期交渉で重要なのは、いきなり価格を詰めることではなく、どのような条件であれば取引が成立し得るのかを互いにすり合わせていくことです。売り手にとっては、条件そのもの以上に「買われた後に会社がどう扱われるのか、誰が責任を持つのか」が重要な判断材料になります。
弊社の経験上、初期交渉でのトップ面談は成約率に大きく影響します。特に東南アジアのオーナー企業では、経営者同士が直接顔を合わせ、ビジョンや価値観を確認し合うプロセスが、売り手の意思決定を左右します。また、価格以外の条件(雇用維持、ブランドの扱い、拠点の維持、創業者の関与)を後回しにしないことが、PMIでの摩擦を防ぐ鍵です。
DDの詳細は次章で解説します。
バリュエーションの詳細は次章で解説します。
海外では契約文言が紛争時の判断基準となる場面が多く、「言わなくても分かる」といった前提は通用しません。DDで把握した論点は口頭の理解にとどめず、できる限り契約条件に落とし込み、リスクの所在が分かる形で管理していきます。
PMIの詳細は第6章で解説します。
弊社がこれまで関与した案件や、海外M&A研修で講師として取り上げてきたケーススタディを通じて、特に中堅・中小企業が陥りやすいパターンを3つに整理しました。
①「社長案件」で検証が甘くなる:トップダウンで案件が進む場合、社内で異論を唱えにくい空気が生まれがちです。弊社では、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)として意図的に「この案件を止めるとしたら何が理由になるか」という問いを投資委員会に投げかけ、冷静な検証の場を設けることを推奨しています。
②オーナー企業の「人依存リスク」を見落とす:東南アジアの売り案件では、オーナー個人の人脈や信用で取引先との関係が成り立っている企業が少なくありません。「この社長が抜けても事業は回るか?」を事前に見極めなければ、買収後に顧客離れが起きます。
③「郷に入っては郷に従え」の範囲を決めていない:会計・コンプライアンスは本社基準で統一すべきですが、営業手法や人事評価まで日本式を持ち込むと現地人材は離れます。「何を揃え、何を任せるか」の線引きを買収前に設計しておくことが、PMI成功の分岐点です。
5. 海外M&Aのデューデリジェンスとバリュエーション
デューデリジェンス(DD)の実務
DDは海外M&Aにおける最も重要な工程の一つです。ここで大切なのは、買収を正当化する材料を集めることではなく、「買った後に、どこで困りそうか」を先に洗い出すという姿勢です。
| DDの種類 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 財務・税務DD | 売上計上の妥当性・回収状況、在庫・原価・運転資本の健全性。取引形態・価格設定の税制上の適切性。過去の潜在的な税務リスク。海外では会計・税務慣行の違いにより、同じ利益でも実質的な収益性が異なる場合がある。 |
| ビジネスDD | 「誰に、何を、どのように提供し収益を生むか」の事業モデルの整理。顧客構成・依存度、競争優位性、価格決定力の検証。市場環境・成長性を踏まえた中長期の事業継続性の評価。 |
| 法務DD | チェンジオブコントロール条項の有無、知的財産の帰属、許認可・認証の承継可否。既存の訴訟・紛争に加え、将来の紛争リスクの予防的把握。 |
| 人事DD | キーパーソンの特定と残留可能性。人事制度・労働慣行のギャップ確認。PMI時の離職リスク評価。海外M&Aの成否を特に左右しやすい領域。 |
| 環境DD | 過去の操業起因の土壌汚染・廃棄物処理・環境規制への適合状況。買収後に問題が表面化した場合の影響が特に大きい領域。 |
DDの限界を理解する:どれだけ調査を重ねても、すべてを把握しきれるわけではありません。重要なのは「分からなかったこと」の不確実性をどう扱うか ― 価格に織り込むのか、契約条件で備えるのか、PMI後の運営の中で対応するのか ― をあらかじめ整理しておくことです。DDはすべてを明らかにするための工程ではなく、判断の前提を整えるための工程です。
弊社がシンガポール・ベトナム・タイ等の案件でDDを支援する中で、繰り返し遭遇する論点をご紹介します。
・二重帳簿の存在:ベトナムやインドネシアでは、税務申告用と経営管理用で異なる帳簿を持つ企業が一定数存在します。弊社では、売り手企業との信頼関係を先に構築し、「実態ベースの数字」を早期に開示してもらう仕組みを作っています。
・関連当事者取引の多さ:オーナー企業では、オーナー個人やその親族が所有する別会社との取引が混在しているケースが多く、正常収益力(Normalized EBITDA)の算出が肝になります。
・「完璧なDD」は存在しない:すべてのリスクを排除することは不可能です。重要なのは、把握できたリスクと把握しきれなかったリスクを区別し、それぞれを価格調整・契約上の表明保証・PMI後の対応のいずれで織り込むかを整理しておくことです。
バリュエーション(企業価値評価)の実務
バリュエーションは、単に計算式に数字を当てはめる作業ではありません。どの前提を置くかによって評価結果が大きく変わるため、事業の実態や将来性を踏まえた総合的な判断が求められます。
中堅・中小企業にとって重要なのは、安く買うことそのものではなく、買収後に価値を回収できるかという視点です。シナジー効果は期待が先行しやすいため、「何をすれば実現するのか、誰が担うのか、どれくらいの時間がかかるのか」まで具体化し、実行可能性を伴わない楽観的な前提に依らないことが重要です。
6. 海外M&A成功の鍵:PMIの設計と実行
海外M&Aを成功させるためには、買収後の経営をいかに実行するかが最大の分岐点です。買収がゴールのように見えがちですが、成果が出るかどうかは、その後のPMI設計と実行で決まります。
PMIで最初に問われること:経営体制と意思決定の設計
PMIの初期段階でまず問われるのは、「誰が何を決めるのか、現地にどこまで裁量を与えるのか、本社として最低限どこを統制するのか」の明確化です。ここが曖昧なままだと、現地の判断が止まり、意思決定が先送りされ、本来取り得た機会を逃すリスクが高まります。
IN-OUT型の海外M&Aでは、買収戦略の立案フェーズの入口から慎重な検討が求められます。その理由は、海外M&A対象企業の経営は、ほとんどの日本人にとって容易ではないという現実があるためです。
海外M&A成功のためのPMI重要チェックポイント
PMIの具体的な進め方
PMIの準備は、海外M&Aの検討に着手する段階から始まっているのが理想的です。DDプロセスの中で100日プランを作り込み、クロージング後に即座に動ける体制を整えます。
海外M&A成立後には、ステークホルダーや従業員に対して統合戦略や方向性を明確に伝え、不安の解消と信頼の醸成を図ります。買収によって「将来が不透明になった」と受け止められると、人材は想定以上に早く流出しやすくなります。
海外M&A成立後の初期100日は、PMIの成否を分ける重要な期間です。会計・コンプライアンスなど最低限の統制は早期に整えつつ、営業判断や日常運営については現地の裁量を尊重する ― その切り分けを明確にすることが重要です。
100日プランに基づいて長期的な統合計画を策定し、実行に移します。専用のPMIチームを編成し、案件ごとにPMIの責任者を明確に置き、M&A先のキーパーソンとして深く入り込む体制が効果的です。
KPIの定期的なレビュー、組織文化の調和状況の評価、新たな課題への対応策の立案を継続的に行います。弊社では、月次での経営報告会を「報告の場」ではなく「課題発見と改善策のディスカッションの場」として設計することを推奨しています。
PMIの落とし穴:「管理強化」が裏目に出るケース
弊社が目にしてきた典型的な失敗例は、買収直後に日本本社の承認フローをそのまま導入し、現地の意思決定スピードが著しく低下するパターンです。以前は即日で回答できていた顧客対応が「本社確認待ち」になり、競合に案件を奪われる ― その結果、現地の中核人材ほど「この会社にいても成長できない」と感じ、退職していきます。PMIの目的は形式をそろえることではなく、買収時に描いた成長シナリオを実現することです。
弊社が東南アジア案件のPMI支援で一貫して提案しているのは、「最初の100日で触るのは管理会計とコンプライアンスだけ。営業と人事は半年間、現地に任せる」という原則です。
日本本社が買収直後に全領域を統制しようとすると、現地経営陣が「信頼されていない」と感じ、優秀な人材から順に抜けていきます。弊社の経験では、以下の権限設計が安定的なPMIにつながるケースが多いです。
・日常の営業判断・採用:現地経営陣に裁量を委ね、KPIで結果を管理
・月次決算・税務申告・コンプライアンス:買収後早期に本社基準へ移行。必要に応じて現地の外部専門家を起用
・年度事業計画・大型投資・役員報酬:本社決裁事項として明確にルール化
・買収先の経営陣:最低2年間はリテンション(残留)を確保し、段階的に引継ぎ計画を策定
M&Aガイド PMI編
クロスボーダーM&AのPMIとは?M&A成功の鍵を握る海外経営統合プロセスの全てを解説します。
Read More →7. 海外M&Aの国別解説
シンガポールの海外M&A
東南アジアへの事業展開を考える日本企業において、シンガポールの地場企業の買収は非常に重要な戦略的位置づけとなっています。過去5年間の海外In-Out案件で、シンガポールは米国に次いで第2位の件数(174件)を記録しており、東南アジア全体における日本企業の海外M&Aの中核です。
クリーンな事業環境と政治体制を持つシンガポールは「東南アジアのゲートウェイ」として認知されており、外資規制も一部の業種を除きほとんどないことから、東南アジア展開の第一歩として選ばれています。
シンガポールの海外M&Aの特徴
日本と似ており、後継者不在による事業承継問題から企業売却を考えるケースが多い点が特徴です。弊社はシンガポール現地企業側の海外M&Aアドバイザリーサービスを提供しており、現地企業との対話の中でこの傾向を実感しています。
シンガポールで海外M&Aを行うメリット
- 魅力的な税制(法人実効税率17%)
- 外資規制の少なさ
- 安定した政治・法制度
- 東南アジア全体へのゲートウェイ機能
M&Aガイド シンガポール編
シンガポールのクロスボーダーM&A最新情報、メリット・デメリットを解説します。
Read More →ベトナムの海外M&A
ベトナムは過去5年間で115件の海外In-Out案件があり、アジアで急成長する投資先です。日本企業は企業イメージの良さからベトナム現地企業に特に人気があります。
ベトナムの海外M&Aの特徴
急速な国の成長に合わせた「事業拡大」目的の案件が多い点が特徴です。また、ベトナムでは二重帳簿が一般的に存在しているため、弊社では売り側企業との信頼関係を構築し、状況を正確に把握したうえで案件を取り扱っています。
ベトナムで海外M&Aを行うメリット
- 人口約9,500万人で増加傾向
- 平均年齢31歳と若い人口構成
- 安定したインフレ率による消費拡大
- 高度経済成長期の日本と重なる経済環境
インドネシアの海外M&A
インドネシアは過去5年間で58件の海外In-Out案件があります。自国保護が強く規制の壁が比較的高い国ですが、世界第4位の人口を持ち、経済発展に伴い中間所得者層が増加し、国内消費が非常に活発です。
インドネシアの海外M&Aの特徴
法整備が発展途上であり、公的機関とのコネクションがスムーズな海外M&Aの推進に重要です。外国人だとうまくいかなかったことが、現地パートナーの一本の電話で解決する、ということも実務上頻繁にあります。
タイの海外M&A
タイは過去5年間で75件の海外In-Out案件があり、東南アジアの中心に位置するASEAN諸国へのゲートウェイとして機能しています。
タイの海外M&Aの特徴
ITやデジタルサービス、再生可能エネルギー、製造業など新興企業・成長分野への投資が増加しています。タイでは外国企業に対する持株比率制限が厳しく、特にサービス業では注意が必要です。事業内容によっては製造業でもサービス業として扱われることがあるため、十分な事前調査が不可欠です。
8. 海外M&Aの弊社支援実績
弊社の海外M&A支援実績をご紹介します(開示可能な事例を抜粋)。
国分グループによるシンガポール食品卸売事業会社 San Sesan Global社の株式取得
国分グループは、第11次長期経営計画において海外事業の「基幹」事業化を掲げ、シンガポールをアセアン事業の中核地と位置付け、卸売事業をより強固な体制にすることを目的にSan Sesan Global社の株式を取得しました。
弊社では、San Sesan Global社側の売手アドバイザーとして、海外M&Aのアドバイス及び実行支援を提供しました。
株式会社カナミックネットワークによるTHE WORLD MANAGEMENT PTE LTDの株式取得
カナミックネットワークグループは、ヘルスケア分野・保険サービス分野の事業ポートフォリオ拡大を掲げ、バックエンドシステム導入コンサルティングを提供するTWM社の株式を取得。フロントエンドシステム開発力と組み合わせることで、総合的なITシステム提供が可能となりました。
弊社では、TWM社側の売手アドバイザーとして、海外M&Aのアドバイス及び実行支援を提供しました。
ラバブルマーケティンググループの東南アジアにおける海外M&A支援
SNSマーケティング事業を行うラバブルマーケティンググループは、タイの現地法人DTK AD Co.,Ltd.の株式49%を取得・子会社化。東南アジアに進出する企業のマーケティング支援とインバウンド需要の獲得を目的としています。
弊社では、ラバブルマーケティンググループの海外M&Aにおける包括的な実行支援を提供しました。
NTTデータ先端技術株式会社とAlgoAnalytics社の資本業務提携
NTTデータ先端技術株式会社は、AI全般を強みとするインドのAlgoAnalytics Pvt. Ltd.と、先進技術領域における取り組みの拡大に向けた資本業務提携を実施。
弊社では、両社の海外M&A(資本業務提携)におけるアドバイス及び実行支援を提供しました。
※ 本記事の内容は、弊社が所属するGPCグループ(株式会社グローバル・パートナーズ・コンサルティング)が関東経済産業局委託事業として調査を実施した「中堅・中小企業のための海外M&A事例集 2026年版」における企業ヒアリングや現地専門家への取材で得られた知見を一部反映しています。
結論:海外M&Aの今後の展望と戦略的提言
海外M&Aは、企業が国際市場での競争力を維持し成長を追求するための重要な戦略であり続けるでしょう。特にデジタル技術の進展に伴い、IT分野での海外M&A案件が増加する見通しです。
しかし、海外M&Aは国内M&Aと比べてPMIの難易度が高くなる傾向にあります。言語・法律・商慣習・文化など様々な環境が異なる企業同士の統合であるため、より慎重な取り組みが求められます。
海外M&Aを成功させるためには、以下が不可欠です。
- 「なぜ海外M&Aなのか」を自社の状況に即して言語化し、戦略と手段の順序を誤らないこと
- 事前の徹底したデューデリジェンスと、残る不確実性の適切な管理
- PMIにおいて最低限の統制と現地の裁量のバランスを設計すること
- 経営トップ自らが現地に赴き、対面での信頼関係構築に投資すること
- 現地情報に精通した外部専門家のアドバイザリーサービスの活用
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海外M&Aのご相談はGGAへ
弊社では、シンガポールを中心に東南アジアの売り案件を取り揃えております。
海外M&Aという手法を活用した東南アジアへの進出・事業拡大にご興味のある日系企業様、
「買い」側のM&Aアドバイザー様はお気軽にご連絡ください。
弊社の海外M&Aアドバイザリーサービスをご利用いただくことで、
「売」企業様とのコミュニケーションが日本語で可能です。
(注)上記記述は、その内容を弊社が保証するものではありません。詳細・最新情報は弊社までお問い合わせください。
参考:経済産業省 関東経済産業局「中堅・中小企業のための海外M&A事例集(2026年版)」(調査実施:株式会社グローバル・パートナーズ・コンサルティング)
監修:クロスボーダーM&Aアドバイザリー部門
(注)上記記述は、その内容を弊社が保証するものではありません。詳細、最新情報は弊社までお問い合わせください。
監修:クロスボーダーM&Aアドバイザリー部門

