クロスボーダーM&A 完全ガイド 買収後の会計(PPA・のれん・減損)編【2026年版】
本記事の内容は、弊社が所属するGPCグループ(株式会社グローバル・パートナーズ・コンサルティング)が関東経済産業局の委託を受けて実施した「中堅・中小企業のための海外M&A事例集(2026年版)」における企業ヒアリングや現地専門家への取材で得られた知見を一部反映しています。
1. 2026年の最新動向:日本基準ののれんは償却が続く
2026年7月、今回提案されたのれんの非償却および償却・非償却の選択制は、ASBJ(企業会計基準委員会)に新規テーマとして提言しないことが決定されました。2026年10月時点の日本基準では、のれんを20年以内で規則的に償却し、減損の兆候がある場合に減損処理を行う現行モデルが継続します。今後は、非償却ではなく、償却期間・償却方法の考え方と、のれん償却前営業利益の情報提供が検討されます。
2025年には、経済団体やスタートアップ関係者から、のれんの非償却の導入などを求めるテーマ提案が出され、検討が進められてきました。主な経緯は次のとおりです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年7月 | 企業会計基準諮問会議が、のれんの非償却の導入と償却費の計上区分の変更を求めるテーマ提案を受理 |
| 2025年8月〜2026年6月 | ASBJが、学識経験者・監査人・財務諸表の利用者・作成者などから計9回の意見聴取を実施 |
| 2026年4月 | 財務会計基準機構が情報要請(意見募集)を公表 |
| 2026年7月27日 | 企業会計基準諮問会議が、のれんを一定の期間にわたって償却する基本的な枠組みは変更しないこととし、非償却の導入と償却・非償却の選択制をASBJに提言しないことを決定 |
| 2026年9月3日 | ASBJが、諮問会議の提言を尊重し、提言の内容に沿って新規テーマとすることを決定 |
ASBJの新しいテーマは、次の2段階の構造になっています(ASBJ「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」2026年9月18日改訂)。
- 償却期間・償却方法の考え方のれんの償却を定める企業会計基準第21号第32項の実務上の課題について、償却期間と償却方法の考え方を会計基準で明らかにすることで対応が図られるかを検討し、図られると判断した場合に、その考え方を示す取組みを進めます。
- のれん償却前営業利益の情報提供償却費を営業費用に計上する現在の処理の下で、のれん償却前営業利益に関する情報提供の見直しが会計基準の改善につながるかを検討し、つながると判断した場合に会計基準の開発を行います。
IFRSでも、国際会計基準審議会(IASB)が「企業結合—開示、のれん及び減損」の公開草案を2024年3月に公表し、再審議を続けています。2026年10月時点でIFRS第3号・IAS第36号の修正は最終化されておらず、2026年10月1日時点のIASBの作業計画では、プロジェクトの方向性の決定は2027年上期とされています。いずれも今後の動きがあるため、決算の際にはASBJ・IASBの最新の公表資料を確認してください。
2. 買収後の会計の全体像
海外企業の株式を取得して子会社にした場合、主に次の会計処理が必要になります(日本基準)。
| 時点 | 主な会計処理 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 取得時 | 取得原価を算定する。取得に要した費用(アドバイザー報酬など)は、連結では発生した期の費用、親会社の個別財務諸表では子会社株式の取得価額に含める | 企業会計基準第21号第26項、移管指針第9号第56項 |
| 取得後1年以内 | 取得原価を、取得した資産・負債(無形資産を含む)に配分する(PPA)。のれんの金額が確定する | 第21号第28項・第29項 |
| 毎期 | のれんの償却、減損の兆候の判定、在外子会社ののれんの為替換算 | 第21号第32項、企業会計基準適用指針第6号、移管指針第2号第40項 |
| 親会社の決算 | 個別財務諸表で子会社株式の評価(減損の要否)を判断する | 移管指針第9号第92項・第285項 |
「移管指針」は、日本公認会計士協会が公表していた会計に関する実務指針が、2024年にASBJへ移管されたものです。旧来の名称(会計制度委員会報告など)で参照している社内資料は、名称と番号を確認しておきましょう。
3. PPA(取得原価の配分)の流れ
- 取得原価を確定する支払った対価を集計します。アーンアウト(業績に応じた追加の支払い)は、日本基準では、支払いが確実になり、その時価を合理的に決められるようになった時点で取得原価に加えます(第21号第27項)。
- 取得した資産・負債を時価で評価する棚卸資産、有形固定資産、引当金などを、企業結合日の時価で評価し直します。DDで見つかった簿外の債務も、要件を満たせばここで負債として認識します。
- 無形資産を識別する法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産は、のれんと区別して計上します(第21号第29項)。顧客との関係、技術、商標などが代表例です。
- 税効果を計上する時価で評価し直した差額や識別した無形資産には、繰延税金を計上します。一方、のれん自体には繰延税金を計上しません(企業会計基準適用指針第28号第43項)。
- のれん(または負ののれん)を算定する取得原価が、配分した資産・負債の純額を上回る部分がのれんです。下回る部分(負ののれん)は、配分をやり直したうえで、なお残る額を発生した期の利益とします(第21号第33項)。
- 1年以内に確定させる企業結合日以後1年以内に配分を確定させます。それまでは暫定的な金額で決算を行い、確定した時点で修正します(第21号第28項)。
IFRSでも、取得日から1年以内の「測定期間」の中で暫定的な金額を修正する仕組みがあります。海外の子会社が現地の会計基準で決算をしている場合でも、PPAは親会社の連結決算で用いる会計基準にもとづいて行う必要がある点に注意してください。
4. 識別可能な無形資産の評価
PPAで手間がかかるのが、無形資産の識別と評価です。主な無形資産と、よく使われる評価方法は次のとおりです。
| 無形資産の例 | よく使われる評価方法 | 評価の考え方 |
|---|---|---|
| 顧客との関係(顧客リスト、継続的な取引契約) | 超過収益法 | その資産から生じる将来の利益から、他の資産の貢献分を差し引いて価値を求める |
| 技術・ソフトウェア | ロイヤルティ免除法、コスト・アプローチ | 自社で持っていなければ払うはずの使用料や、作り直すのにかかる費用から価値を求める |
| 商標・ブランド | ロイヤルティ免除法 | 他社から使用許諾を受けた場合の使用料から価値を求める |
| 受注残 | 超過収益法 | 契約済みで未履行の受注から得られる利益をもとに求める |
| 競業避止の契約 | With and Without法 | その契約がある場合とない場合の利益の差から価値を求める |
評価の実務では、日本公認会計士協会の「企業価値評価ガイドライン」なども参考にされます。無形資産の評価に使う割引率は、買収全体の投資利回りや対象会社の資本コストと整合している必要があり、監査人からも確認を受ける論点です。
無形資産をどれだけ識別するかは、買収後の利益に影響します。日本基準では無形資産ものれんも償却しますが、償却年数が異なれば毎期の費用が変わります。IFRSではのれんを償却しないため、無形資産に配分した分だけ毎期の償却費が増える一方、のれんの金額が小さくなり、将来の減損リスクは下がります。
5. のれんの償却:日本基準とIFRSの違い
| 論点 | 日本基準 | IFRS |
|---|---|---|
| のれんの償却 | 20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法で規則的に償却(第21号第32項) | 償却しない。毎年、減損テストを行う(IAS第36号) |
| 減損の判定 | 減損の兆候がある場合に、割引前の将来キャッシュ・フローで判定し、回収可能価額まで減額する | 回収可能価額(使用価値と処分コスト控除後の公正価値の高いほう)と帳簿価額を比べる |
| PPAの期限 | 企業結合日以後1年以内 | 取得日から1年以内(測定期間) |
| 取得関連費用 | 連結では費用、個別では子会社株式の取得価額に含める | 費用 |
| 条件付取得対価(アーンアウト) | 支払いが確実になり、その時価を合理的に決められる時点で、取得原価とのれんを修正 | 取得日の公正価値で計上し、その後の変動は原則として損益 |
| 減損の戻入れ | 行わない | のれんについては行わない |
米国会計基準でものれんは償却せず減損テストを行いますが、非上場会社には10年以内で償却する選択肢が認められています。
償却年数の決め方
日本基準では、のれんの償却年数を20年以内で会社が決めます。実務では、買収の投資回収期間、事業計画の期間、主要な顧客との関係が続くと見込まれる期間などを根拠にします。ASBJの新テーマで償却期間の考え方が明らかにされる可能性があることを踏まえても、なぜその年数にしたのかを、取得時に文書にしておくことが重要です。
6. のれんの減損
日本基準の手順
- 減損の兆候を判定する営業損益の継続的なマイナス、回収可能価額を大きく下げるような事業の使い方の変化、経営環境の著しい悪化、市場価格の著しい下落などが兆候の例です(企業会計基準適用指針第6号第12項〜第15項)。のれんは、それ自体では兆候の有無を判断できないため、原則として、のれんを含むより大きな単位で判定します(同第17項)。
- 減損を認識するか判定する兆候がある場合、のれんを含む単位の割引前の将来キャッシュ・フローの合計が帳簿価額を下回れば、減損を認識します。
- 減損損失を測定する帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その差額を減損損失とします。一度計上した減損損失は戻し入れません。
多額のプレミアムを払った買収の注意点
多額のプレミアムが支払われ、取得原価のうちのれんや無形資産に配分された金額が相対的に多額となる場合、企業結合年度から減損の兆候が存在すると判断されることがあります(企業会計基準第21号・結論の背景第109項)。買収した年度だから減損は関係ない、とは限らない点に注意が必要です。
また、買収の時点で前提にした事業計画と実績が大きく乖離していないかは、減損の兆候を判断する実務上の重要な材料です。取得時の事業計画を保存し、買収後は計画と実績を継続的に比べられる体制をつくっておきましょう。
IFRSの場合
IFRSでは、のれんを資金生成単位(キャッシュ・フローを生み出す最小の単位)またはそのグループに配分し、兆候の有無にかかわらず毎年減損テストを行います。のれんを償却しない分、買収後の業績が計画を下回った場合に、一度に大きな減損損失が計上されやすい点が特徴です。
7. 在外子会社ののれんと為替換算
日本基準では、在外子会社の株式を取得した際に生じたのれんは、外国通貨で把握します。期末の残高は決算時の為替相場で、償却額は原則として期中平均相場で換算し、換算から生じる差額は為替換算調整勘定に含めます(移管指針第2号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」第40項)。IFRSでも、のれんは在外営業活動体の資産として扱い、決算日の為替レートで換算します(IAS第21号)。
たとえば、シンガポールの会社を買収して1,000万シンガポールドル(SGD)ののれんが生じ、10年で償却する場合を考えます。取得時のレートが仮に1SGD=110円なら、のれんは11億円です。1年後、期中平均レートが112円、期末レートが115円だったとすると、次のようになります。
| 項目 | 計算 | 円換算額 |
|---|---|---|
| 当期の償却額 | 100万SGD × 112円(期中平均) | 1.12億円 |
| 期末ののれん残高 | 900万SGD × 115円(決算時) | 10.35億円 |
| 為替換算調整勘定への影響 | 10.35億円 −(11億円 − 1.12億円) | +0.47億円 |
現地通貨が円に対して下落すると、円で見たのれんの残高は減りますが、その分は損益ではなく為替換算調整勘定で調整されます。一方、減損の判定では、現地通貨建ての事業計画と、円に換算した場合の影響の両方を確認する必要があります。
8. 親会社の個別財務諸表:子会社株式の評価
親会社の個別財務諸表では、子会社株式を取得原価(取得に要した費用を含む)で計上します。そのうえで、毎期、子会社株式の価値が大きく下がっていないかを確認します。
- 実質価額の著しい低下:市場価格のない株式は、子会社の財政状態を反映した実質価額が、取得原価に比べて50%程度以上低下した場合に「著しく低下した」とされ、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合を除き、減損処理が必要です(移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」第92項)。
- 超過収益力の考慮:買収価格に含まれた超過収益力(のれんに相当する部分)を実質価額に反映できる場合があり、子会社株式などは事業計画などにもとづいて回復可能性を判断できる場合があります(同第285項)。そのため、取得時の事業計画の達成状況が、ここでも判断の材料になります。
個別の減損と連結ののれんの関係
個別財務諸表で子会社株式を減損した場合、連結財務諸表では、減損後の帳簿価額が、子会社の資本のうち親会社の持分とのれんの未償却額の合計を下回った部分について、のれんの未償却額を上限に追加で償却します(移管指針第4号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第32項)。なお、子会社株式の減損とのれんの減損の関係は、ASBJでも2017年10月から検討が続いているテーマです。
税務上は、子会社株式の評価損を損金に算入できる場面は限られており、会計上の減損と一致しないことが多くあります。上場していない中堅・中小企業では連結財務諸表を作成していないことも多いですが、その場合でも、個別財務諸表での子会社株式の評価は必要で、金融機関への説明でも論点になります。
9. 東南アジアの子会社で見られる減損の兆候
東南アジアの企業を買収した後、のれんや子会社株式の減損につながりやすいのは、次のような事象です。
- 事業計画の未達:売り手が作成した計画をそのまま使い、成長の前提が楽観的すぎた。
- オーナー・キーパーソンの離脱:創業者や営業の中心人物が退任し、顧客や取引先が離れた。
- 関連当事者取引の解消:オーナー関連会社との有利な取引条件がなくなり、利益率が下がった。
- 現地通貨安:円で見た収益や価値が目減りした。
- 規制・税制の変更:外資規制や優遇税制の要件が変わり、事業の前提が崩れた。
- 金利の上昇:割引率が上がり、将来キャッシュ・フローの現在価値が下がった。
このうち、計画の楽観性や関連当事者取引は、本来DDの段階で見つけるべき論点です。DDでよく見つかる問題は東南アジアDDのレッドフラッグ事例集で紹介しています。
10. DD・バリュエーションの段階から準備しておくこと
- 事業計画を買い手の目線で精査するDDで正常収益力を把握し、売り手の計画の前提を検証したうえで、価格とPPAの基礎になる計画をつくります。考え方は財務・税務DD(FTDD)実務編と企業価値算定 完全ガイドで解説しています。
- 無形資産をDDの段階で意識する顧客との契約に譲渡制限やチェンジ・オブ・コントロール条項がないか、商標の登録名義は対象会社かなど、無形資産の評価に関わる事項をDDで確認しておきます。
- アーンアウトの会計を契約前に確認するアーンアウトの条件によって、のれんや損益への影響が変わります。最終契約(SPA)実務編もあわせてご覧ください。
- 監査法人と早めに協議するPPAの方針、外部の評価専門家の利用、償却年数の根拠を、クロージング前後の早い段階で監査法人とすり合わせます。
- 取得時の計画をPMIで追いかける計画と実績を継続的に比較し、乖離の理由を説明できるようにしておくことが、減損の判断と監査対応の両方に役立ちます。PMI編もご覧ください。
買収後にのれんの減損が問題になる案件の多くは、買収時の事業計画が楽観的すぎたか、DDで見つけるべき論点を見落としていたケースです。会計の論点は決算の時期に考えればよいと思われがちですが、PPAや減損の判断の土台になるのは、DDとバリュエーションの段階でつくった計画と前提です。買収の検討段階から、会計の目線で計画と前提を確認しておくことをおすすめします。
11. よくある質問
GGAの支援事例
本記事のテーマに関連する、GGAの支援事例をご紹介します(開示可能な事例を抜粋)。
米国NASDAQ上場のSBCメディカルグループホールディングスによる、シンガポールの美容医療企業Aesthetic Healthcare Holdings Pte. Ltd.の買収に伴い、SFRS(シンガポール財務報告基準)からUS GAAPへのコンバート、内部統制の整備、財務報告プロセスの内製化・定着を支援しました。
リックソフト株式会社(東証グロース:4429)による、シンガポールのITコンサルティング会社Information Officer Pte. Ltd.の発行済株式39%の取得において、買手・売手双方のファイナンシャル・アドバイザーとして、シンガポール・米国を含む買収ストラクチャーの構築、財務・税務・法務デューデリジェンスとバリュエーションの調整、取締役会の投資判断の支援、株式譲渡契約書・株主間契約書の作成と交渉(日英)、クロージング手続、PMIに関する助言までを支援しました。
表明保証・補償・価格調整・アーンアウト。DDの発見事項を契約に落とし込む対応表つき。
Read More →直接買収とシンガポール持株会社経由の比較。税制・外資規制・売却時の課税まで。
Read More →出資比率ごとの権利、株主間契約、段階取得、持分法、出口の設計。
Read More →海外M&Aの全体の流れと期間、FAと仲介の違い、報酬の一般的な相場。
Read More →正常収益力・ネットデット・運転資本・税務リスクの見方と、DD結果を価格・契約に反映する方法。
Read More →DD費用を左右する要素、標準的なスケジュール、依頼前に準備する資料。
Read More →二重帳簿・関連当事者取引・源泉税の未納など、東南アジアのDDで見つかる8つのモデルケース。
Read More →株式譲渡課税・間接税・更正期間など、6カ国の税務DDの論点を横断比較。
Read More →中堅・中小の海外M&Aで費用を抑えるDDの選択肢と、その限界。
Read More →DDの全体像、クロスボーダー特有のリスク、実施手順。
Read More →GGAは、シンガポールを拠点に東南アジア全域のクロスボーダーM&Aを支援しています。
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日本の公認会計士が、DD・バリュエーションから最終契約、買収後の会計、PMIまで一貫してサポートします。
関東経済産業局の委託調査「海外M&A事例集(2026年版)」を担当したチームが対応します。
(注)本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件への助言ではありません。税制・規制は頻繁に改正されるため、実際の検討にあたっては最新情報をご確認のうえ専門家にご相談ください。記載内容は2026年10月時点の情報に基づきます。
(注)上記記述は、その内容を弊社が保証するものではありません。詳細、最新情報は弊社までお問い合わせください。
監修:クロスボーダーM&Aアドバイザリー部門

