クロスボーダーM&A 完全ガイド 少数出資・資本業務提携編【2026年版】
本記事の内容は、弊社が所属するGPCグループ(株式会社グローバル・パートナーズ・コンサルティング)が関東経済産業局の委託を受けて実施した「中堅・中小企業のための海外M&A事例集(2026年版)」における企業ヒアリングや現地専門家への取材で得られた知見を一部反映しています。
1. 少数出資・資本業務提携とは
少数出資は、対象会社の議決権の過半数に満たない株式を取得することです。資本業務提携は、出資に加えて、販売・調達・技術・人材などの業務上の協力を契約で定めるものです。東南アジアの案件で少数出資が選ばれる主な理由は次のとおりです。
- 外資規制:業種によっては外国資本の比率に上限があり、過半数を取得できない場合があります(タイの外国人事業法、フィリピンの外国投資ネガティブリスト、インドネシアの投資ポジティブリストなど)。
- リスクを抑えた見極め:投資額を抑え、相手の経営や事業との相性を確かめてから関与を深めたい場合に使われます。
- オーナーの意向:創業者が経営権を手放したくない場合でも、少数出資であれば合意しやすくなります。
なお、外資規制を避けるために名義上の株主(ノミニー)を立てる構成は、法令違反となるおそれがあります。各国の外資規制の概要は買収ストラクチャー編で整理しています。
2. 100%買収との違い
| 項目 | 100%買収 | 少数出資・資本業務提携 |
|---|---|---|
| 経営の支配 | 経営方針や役員を決められる | 原則として決められない。株主間契約で一定の関与を確保する |
| 投資額とリスク | 大きい | 小さい。ただし出資額を失うリスクはある |
| 情報の入手 | 自由に入手できる | 契約で定めた範囲に限られる |
| 統合(PMI) | 自社の仕組みに統合できる | 相手の仕組みのまま。業務提携の運営が中心 |
| 日本の決算での扱い | 連結子会社 | 持分法適用会社、または金融商品 |
| 出口 | 自社の判断で売却できる | 買い手が限られ、売却には他の株主の協力が必要になりやすい |
3. 出資比率ごとに得られる権利
株主総会の決議には、過半数で決まる普通決議と、定款の変更や増資、合併などの重要事項を決める特別決議があります。少数株主にとって重要なのは、特別決議を単独で否決できる比率を持てるかどうかです。主な国の目安は次のとおりです。
| 国 | 重要事項の決議に必要な賛成(目安) | 単独で否決できる持分(目安) |
|---|---|---|
| シンガポール | 特別決議:議決権の75%以上 | 25%超 |
| マレーシア | 特別決議:議決権の75%以上 | 25%超 |
| タイ | 特別決議:出席株主の議決権の4分の3以上 | 25%超 |
| ベトナム(株式会社) | 重要事項:出席株主の議決権の65%以上 | 35%超 |
| インドネシア | 定款変更は3分の2以上、合併などは4分の3以上の賛成(出席の要件もある) | 3分の1超(合併などは4分の1超) |
| フィリピン | 定款変更など:発行済株式の3分の2以上 | 3分の1超 |
上の表は一般的な目安です。出席株主を基準にするか発行済株式を基準にするか、定款でより厳しい要件を定めているか、会社の形態(ベトナムの有限責任会社など)によって変わるため、個別に現地の専門家に確認してください。
法律で認められる少数株主の権利だけでは、日常の経営に十分に関与できないことがほとんどです。そこで、次に説明する株主間契約で、取締役の指名権や重要事項への同意権を確保します。
4. 株主間契約の主な条項
株主間契約は、株主同士が会社の運営や株式の扱いについて取り決める契約です。少数出資では、出資条件そのものと同じくらい重要です。
| 条項 | 内容 | 少数株主(日本側)にとっての意味 |
|---|---|---|
| 取締役の指名権 | 一定数の取締役を指名できる権利 | 取締役会での情報入手と意見表明の手段 |
| 重要事項の同意権(拒否権) | 定款変更、増資、事業計画・予算、多額の借入や資産売却、関連当事者取引、配当方針、M&Aなどに、少数株主の同意を必要とする | 出資比率にかかわらず、重要な決定に関与できる |
| 情報請求権 | 月次の財務情報、監査報告、帳簿へのアクセス | 不正や業績の悪化に早く気づくための基本 |
| 先買権 | 他の株主が株式を売るとき、先に買い取れる権利 | 好ましくない第三者の参加を防ぐ |
| タグ・アロング(共同売却権) | 多数株主が第三者に売るとき、同じ条件で一緒に売れる権利 | 支配株主が変わるときに取り残されない |
| ドラッグ・アロング(強制売却権) | 多数株主が売るとき、少数株主にも一緒に売るよう求められる権利 | 少数株主側は、最低価格などの条件を付ける |
| コール・オプション/プット・オプション | 将来、一定の条件と価格で株式を買い増す権利/売り戻す権利 | 段階的な取得や撤退の手段になる |
| デッドロック条項 | 株主間で意見が対立し意思決定できないときの解決手順 | 協議、上位者による交渉、株式の買取りなどを定める |
| 競業避止 | 株主が同じ事業で競合しない約束 | 提携の前提となるノウハウや顧客を守る |
注意:株主間契約は当事者間の約束であり、会社や第三者に対しては効力が限られることがあります。タイ・ベトナム・インドネシアなどでは、拒否権や株式の譲渡制限を定款にも反映しておくことが実務上重要とされています。また、コール・オプションを行使する時点で外資規制の上限や許認可の要件を満たせるかも、契約時に確認しておく必要があります。
5. 段階的に持分を増やす設計
少数出資から始めて、将来の過半数・100%の取得を見すえる場合は、最初の契約で段階的な取得の道筋を決めておきます。
- ステップ1:少数出資と業務提携取締役を派遣し、業務提携を通じて相手の経営と事業を見極めます。
- ステップ2:コール・オプションによる買い増し業績や関係が良好であれば、あらかじめ定めた条件で過半数まで取得します。
- ステップ3:100%の取得創業者の引退などのタイミングで、残りの株式を取得します。
将来の取得価格の決め方には、契約時に算定式(たとえば将来の利益に一定の倍率を掛ける)を定める方法と、行使時に第三者の評価で決める方法があります。算定式を決めておくと価格の予見性は高まりますが、相手が算定の基礎となる利益を意図的に引き上げる動機も生まれます。会計方針の固定や、評価の手続をあわせて定めておくことが重要です。株式の評価の考え方は企業価値算定 完全ガイドで解説しています。
6. 少数出資でのDDと出資契約
出資比率が小さくても、DDは必要です。出資した金額を失うリスクは、100%買収と変わらないためです。投資額に見合った範囲で、重要な論点に絞ってDDを行います。
- 帳簿の信頼性:申告上の数字と実際の数字に乖離がないか
- 関連当事者取引:オーナー関連会社との取引条件が適正か
- 税務:申告・納付の状況、源泉税、税務調査の履歴
- 株主構成と株式:名義株主の有無、過去の株式の発行・譲渡の手続
- 許認可:事業に必要な許認可の名義と期限
範囲を絞ったDDの進め方はレッドフラッグDD・セルサイドDD編をご覧ください。
出資の方法が新株の引受けの場合、表明保証や補償を負うのは対象会社自身になることがあります。しかし、会社が補償金を支払えば、出資した会社の価値がその分だけ減るため、出資者にとって補償の効果は限られます。オーナーなど既存の株主にも表明保証や補償を求めることを検討します。契約の条項の考え方は最終契約(SPA)実務編で解説しています。
7. 持分法と段階取得の会計
持分法
議決権の20%以上を保有する場合や、15%以上20%未満でも役員の派遣や重要な取引などにより財務・営業の方針に重要な影響を与えられる場合、出資先は関連会社となり、日本の連結決算では持分法を適用します(企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」など)。持分法では、出資先の利益のうち自社の持分に相当する額を、投資の金額に反映していきます。
出資額と、出資先の純資産のうち自社の持分に相当する額との差額(のれん相当額)は、日本基準では連結ののれんと同様に償却します。IFRSでは償却せず、投資全体として減損の有無を判定します。関連会社に当たらない場合は、金融商品として取得原価などで計上し、価値が著しく下がった場合は減損を検討します。
段階取得
少数出資から追加取得して子会社にした場合、日本基準の連結決算では、支配を獲得した時点で既存の持分を時価で評価し直し、帳簿価額との差額を段階取得に係る損益として処理します(企業会計基準第21号第25項(2))。IFRSでも、取得日の公正価値で評価し直し、差額を損益に計上します。買収後ののれんの扱いは買収後の会計(PPA・のれん・減損)編で詳しく解説しています。
8. 提携を解消するときの出口
少数出資は、入るときよりも出るときのほうが難しいと言われます。主な出口の方法と注意点は次のとおりです。
- プット・オプションの行使:相手方に株式を買い取らせる権利です。相手に支払能力がなければ実行できないため、オーナー個人の保証などを組み合わせます。送金や外資規制の手続も確認が必要です。
- 第三者への売却:少数株式は買い手が見つかりにくいため、タグ・アロングや先買権の設計が重要になります。
- 新規株式公開(IPO):出資先が上場すれば市場で売却できますが、時期は出資者だけでは決められません。
- デッドロックの解消:意見の対立が続く場合に、一方が他方の株式を買い取る手順を定めておきます。
少数出資の後に多い悩みは、「業務提携が思うように進まない」「約束した財務情報が届かない」「追加出資を求められる」の3つです。いずれも、出資の時点で株主間契約に具体的な取り決めがあれば防げたものが少なくありません。出資比率の交渉に目が向きがちですが、同意が必要な事項の範囲、情報の提供時期、撤退の方法を、出資前に相手と合意しておくことが重要です。
9. よくある質問
GGAの支援事例
本記事のテーマに関連する、GGAの支援事例をご紹介します(開示可能な事例を抜粋)。
リックソフト株式会社(東証グロース:4429)による、シンガポールのITコンサルティング会社Information Officer Pte. Ltd.の発行済株式39%の取得において、買手・売手双方のファイナンシャル・アドバイザーとして、シンガポール・米国を含む買収ストラクチャーの構築、財務・税務・法務デューデリジェンスとバリュエーションの調整、取締役会の投資判断の支援、株式譲渡契約書・株主間契約書の作成と交渉(日英)、クロージング手続、PMIに関する助言までを支援しました。
SNSマーケティング事業を行うラバブルマーケティンググループによる、タイのDTK AD Co., Ltd.の株式49%の取得・子会社化において、包括的な実行支援を提供しました。
NTTデータ先端技術株式会社と、AIを強みとするインドのAlgoAnalytics Pvt. Ltd.との資本業務提携において、アドバイスと実行支援を提供しました。
表明保証・補償・価格調整・アーンアウト。DDの発見事項を契約に落とし込む対応表つき。
Read More →直接買収とシンガポール持株会社経由の比較。税制・外資規制・売却時の課税まで。
Read More →海外M&Aの全体の流れと期間、FAと仲介の違い、報酬の一般的な相場。
Read More →PPA、のれんの償却と減損、在外子会社ののれんの換算、2026年の最新動向。
Read More →正常収益力・ネットデット・運転資本・税務リスクの見方と、DD結果を価格・契約に反映する方法。
Read More →DD費用を左右する要素、標準的なスケジュール、依頼前に準備する資料。
Read More →二重帳簿・関連当事者取引・源泉税の未納など、東南アジアのDDで見つかる8つのモデルケース。
Read More →株式譲渡課税・間接税・更正期間など、6カ国の税務DDの論点を横断比較。
Read More →中堅・中小の海外M&Aで費用を抑えるDDの選択肢と、その限界。
Read More →DDの全体像、クロスボーダー特有のリスク、実施手順。
Read More →GGAは、シンガポールを拠点に東南アジア全域のクロスボーダーM&Aを支援しています。
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日本の公認会計士が、DD・バリュエーションから最終契約、買収後の会計、PMIまで一貫してサポートします。
関東経済産業局の委託調査「海外M&A事例集(2026年版)」を担当したチームが対応します。
(注)本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件への助言ではありません。税制・規制は頻繁に改正されるため、実際の検討にあたっては最新情報をご確認のうえ専門家にご相談ください。記載内容は2026年10月時点の情報に基づきます。
(注)上記記述は、その内容を弊社が保証するものではありません。詳細、最新情報は弊社までお問い合わせください。
監修:クロスボーダーM&Aアドバイザリー部門

