クロスボーダーM&A 完全ガイド建設・インフラ業界編 【2025年版】
クロスボーダーM&A最前線、建設・インフラ業界のクロスボーダーM&A動向・案件情報を国別解説
人口増加、都市化、気候対応という3つの推進力により、東南アジアの建設・インフラ業界が再び活況を呈しています。国ごとに政策やニーズが異なるなか、都市開発、再開発、インフラ運営、建設DXといった多様な分野で外資の投資機会が広がっています。
建設・インフラ分野におけるクロスボーダーM&A動向・注目案件を、弊社クロスボーダーM&Aアドバイザリー部門が解説します。
クロスボーダーM&Aの実施をご検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
クロスボーダーM&A(Cross-border M&A)とは、国境を越えて行う合併や買収のことで、海外企業が関わるM&Aであり、クロスボーダーM&Aは、企業が国際市場において成長を追求し、競争力を強化するための戦略的手段です。ビジネスにおいては国際間の取引という意味となります。日本企業においては国内市場の成熟化や人口減少に伴う需要低迷が顕著であるため、海外への進出が不可避となっており、クロスボーダーM&Aを活用するケースが増加しています。クロスボーダーM&Aは企業がグローバル展開をする手段として注目されており、クロスボーダーM&Aを採用する理由として昨今多くなっているのは、時間を買うという目的が多いです。自社のみで、一から海外進出を検討した場合、クロスボーダーM&Aを行う場合と比較して、海外でビジネスをするための経験・ノウハウやオフィス準備、人材採用・人材確保などの時間を多く要することになり、スピード感をもったビジネス展開が難しくなります。よって、クロスボーダーM&Aにて、海外で既にビジネスを行っている企業を買収できれば、まさに時間を買うことが可能となり、スムーズな海外展開が可能となります。
実際、近年の日本企業によるクロスボーダーM&A(In-Out型のクロスボーダーM&A)は増加傾向にあり、東南アジアの高成長市場や欧米先進国の先端技術取得を狙ったもので、2018年には取引件数および成約金額が過去最高に達しました。また、日本国内ですでに成熟しているマーケットも、海外では未開拓であることが多く、クロスボーダーM&Aを通じて競合他社が少ないブルーオーシャンでビジネスを行うというのは、クロスボーダーM&Aは戦略的に他社との優位性を確保できる優れた手法となります。
さらに、クロスボーダーM&Aの認知度が高まるにつれ、大規模案件に注目が集まり、企業間競争が激化しています。代表的な事例として、ソフトバンクによる英国の半導体設計会社アームのクロスボーダーM&Aや、三菱UFJフィナンシャルグループによるタイのアユタヤ銀行のクロスボーダーM&Aが挙げられます。これらのクロスボーダーM&Aは、国内市場の縮小を背景に、新興市場の成長機会を活用するための手段とされています。
東南アジアにおける建設・インフラ分野での投資やM&Aを検討する際、基本統計の把握は不可欠です。各国で市場の成熟度や政策の方向性が異なり、戦略的な見極めが求められます。
・シンガポールは再開発や高付加価値インフラに特化した成熟市場。
・マレーシアやタイはデータセンターや物流関連の整備が進み、外資誘致が活発。
・インドネシアやベトナムは人口増・都市化を背景にインフラ需要が拡大。
・フィリピンも都市開発や再エネを中心に成長余地が大きく、民間参入の機会が豊富。
国名 | 建設業界の成長率 | 建設業のGDP比率 | 建設業界の規模(2024年) | 主な投資分野・特徴 |
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シンガポール | 3.3%(実質) | 約4.1% | S$34〜37B(約2.5〜2.7兆円) | 公共住宅、空港(T5)、港湾、再エネ施設への投資が活発 |
マレーシア | 15%(実質) | 約4.5% | MYR150.2B(約4.5兆円) | データセンター建設が急増、再エネ・先端製造施設への投資も拡大 |
タイ | 2%(実質) | 約6.2% | USD38.3B(約5.7兆円) | 東部経済回廊(EEC)関連のインフラ整備、物流・鉄道プロジェクトが中心 |
インドネシア | 6.4%(実質) | 約10.1% | IDR2,223.7T(約15.6兆円) | 新首都「ヌサンタラ」建設、都市鉄道、高速道路、再エネインフラが進行中 |
ベトナム | 7.5%(実質) | 約9.1% | VND695.6T(約4.1兆円) | 高速道路、エネルギー、社会住宅開発に注力、FDIの増加も顕著 |
フィリピン | 10.7%(実質) | 約6.5% | PHP1.94T(約4.9兆円) | 公共インフラ整備、再エネ、都市開発プロジェクトが活発化 |
出典:各国統計庁、Oxford Economics、GlobalData、Asian Development Bank(2024年)
国名 | 業界動向 | 成長機会 |
---|---|---|
シンガポール | 成熟市場で再開発案件が主流。建築品質・環境基準が世界最高水準。公共事業比率が高い。 | 都市再開発、バリアフリー・高齢者対応設計、ZEB対応のグリーン建築 |
マレーシア | データセンター投資が拡大。工業団地と電力インフラの統合開発が進行中。 | DC建設、環境認証建築、PPP型インフラ整備、ハラル対応施設建設 |
タイ | EECを中心に物流・輸出インフラ整備が進む。地域ゼネコンの実行力が高い。 | 倉庫・鉄道・港湾インフラ整備、地域パートナーとの資本提携や出資 |
インドネシア | 新首都「ヌサンタラ」の国家プロジェクト化、都市化によるインフラ需要増加 | PPP投資、地場ゼネコンとのJV、調達・施工管理のデジタル化 |
ベトナム | FDI増により交通・住宅・エネルギー開発が急拡大。社会インフラ整備が急務。 | 水道・電力・道路整備、都市住宅開発、建設SaaS・DX連携 |
フィリピン | 大都市と地方の格差が大きく、公共開発を補完する民間ニーズが高い。 | 地方都市の教育・医療施設、インフラ整備、中堅建設会社との提携 |
シンガポール
市場概要
・都市型の成熟市場で、再開発案件が主流
・建築品質・環境基準が厳格で、高付加価値案件が多い
・公共工事の割合が大きく、国主導の開発が中心
政府支援
・グリーン建築(ZEB等)やバリアフリー設計の推進
・都市再開発プログラム(HDB再建計画など)の継続支援
投資機会
・老朽化ビルの再開発
・高齢化社会に対応した公共施設・住宅の建設
・省エネ・持続可能な建築基準対応の民間建築プロジェクト
マレーシア
市場概要
・先端製造業やクラウド企業によるDC(データセンター)投資が拡大
・工業団地とインフラ開発が一体化する動き
・ハラル市場やイスラム金融との連携も進展
政府支援
・再エネ・製造業向けインフラへの誘致強化
・PPP(官民連携)での道路・電力開発促進
・ハラル建設基準のガイドライン提供
投資機会
・DC建設・冷却インフラの整備
・環境認証付き施設建設(GreenRE等)
・ハラル対応インフラ、再エネ施設、物流ハブの建設
タイ
市場概要
・EEC(東部経済回廊)を軸とした大規模輸出・物流インフラの整備が進行
・鉄道・港湾を中心とした国家事業が多数進行中
・施工品質や安全性の国際基準対応が課題
政府支援
・BOI(投資委員会)による税制優遇
・鉄道・空港・高速道路に対するマスタープラン整備
・外資系建設企業への参入機会の提供
投資機会
・倉庫・港湾整備、EEC関連プロジェクト
・地域ゼネコンとのM&Aまたはジョイントベンチャー
・都市鉄道網・工業団地インフラの開発
インドネシア
市場概要
・新首都「ヌサンタラ」建設をはじめ、大型国家プロジェクトが多数
・人口増加・都市集中により社会インフラ整備の需要が高い
・地方都市への分散開発も政策方針に組み込まれている
政府支援
・国策としてPPP方式を広く採用
・建設業に対する外資参入の柔軟化(特定業種で100%外資OK)
・国家戦略事業(PSN)への認定による支援措置
投資機会
・新首都関連の公共交通、上下水道、再エネ施設建設
・地場建設企業とのJVや施工マネジメントの提供
・BIM・調達管理システムなど施工DX分野
ベトナム
市場概要
・FDI(外資直接投資)の増加と都市化により、住宅・道路・水インフラ整備が急務
・社会インフラの遅れが顕著で、地域間格差も大きい
・中長期での都市総合開発需要が高まる傾向
政府支援
・投資奨励地域におけるインフラ開発費の一部補助
・FDI企業とのPPP型インフラプロジェクト推進
・BIM活用の義務化・標準化の推進(段階導入中)
投資機会
・地方・中核都市の住宅・交通インフラ整備
・建設SaaS、スタートアップ連携による建設DX
・下水道・電力など社会インフラプロジェクトへの民間参加
フィリピン
市場概要
・都市集中による渋滞・老朽インフラが深刻化
・一方で、地方都市には開発余地が多く残る
・民間主導による社会インフラ補完が必要とされる段階
政府支援
・PPP Centerを通じた民間提案型プロジェクト制度の整備
・外資規制緩和(建設、電力、教育分野での外資制限緩和)
・教育・医療・公共施設の国家整備計画
投資機会
・地方都市での教育・医療・公営住宅などの建設
・地域建設会社との出資・提携
・建設人材の育成、施工標準の高度化支援
以前はゼネコンや大規模施工業者が主な投資対象でしたが、現在は以下のようなニッチかつ付加価値の高いセグメントにシフトしています。
機会 | 狙い | 注目国 | 着目ポイント | 事例 |
---|---|---|---|---|
専門工事(内装・M&E) | 高級ホテルや高層商業施設向けの内装・設備施工業者の買収により、設計・施工・品質管理を一貫化 | シンガポール、マレーシア | 高付加価値案件に対応できるデザイン・施工力、公共案件対応のライセンス保持、日系建設会社との協業実績 | 清水建設が現地内装会社を買収(2024年)し、設計・施工をローカルで完結可能に |
ファシリティマネジメント(FM) | 施工後の建物の長期運営・保守管理サービスを取り込み、LTV最大化・収益源の多角化を図る | タイ、ベトナム、フィリピン | PM/BM(ビル・プロパティ管理)に強みを持ち、エネルギー効率化やIoT監視が可能な運用企業 | オフィス・商業施設を中心に、外資系FM企業による現地企業との合弁・業務提携が拡大 |
建設×スタートアップ(DX) | AI・IoT・SaaSを活用し、建設現場の省力化・安全管理・BIM連携などにより競争力を強化 | シンガポール、インドネシア、ベトナム | 老朽インフラ監視ドローン、建機の遠隔監視、現場進捗の自動可視化SaaSなど注目領域が多様 | IoT・BIM連携企業とのJV設立や、施工進捗可視化ツールの導入が大手建設会社で進行 |
物流・工場建設 | EV・半導体・再エネ関連製造業の進出に伴い、工場・倉庫の現地建設需要に対応 | タイ、インドネシア、ベトナム | 温湿度制御・クリーンルーム設計やスマート倉庫など、高機能設備への対応力が鍵 | 日系大手製造業が現地工場建設パートナーとして施工会社への出資・買収を進める動き |
国分グループによるシンガポール食品卸売事業会社San Sesan Global社の株式取得に際して売手アドバイザーとして支援
国分グループは、第11次長期経営計画において海外事業の「基幹」事業化を掲げており、アセアン事業はその柱の1つです。アセアンエリアにおける経済、物流、情報の中心であるシンガポールは、当社アセアン事業の中核地と位置付けています。現在、同国においては、アセアン統括会社であるKOKUBU Singapore社、食品卸売事業会社であるKOKUBU Commonwealth Trading、低温物流会社であるCommonwealth KOKUBU Logisticsが事業を展開しており、アセアン地域と日本をつなぐ食のネットワークの構築に向けた体制の強化を推進しています。今般、シンガポール卸売事業をより強固な体制にすることを目的に、San Sesan Global社の株式を取得致しました。
シンガポールを始めとするアジア圏への海外進出やクロスボーダーM&Aを支援するコンサルティングファームであるGlobal Gateway Advisorsでは、本件における、 San Sesan Gobal社側の売手アドバイザーとして、株式売却のアドバイス及び実行支援(クロスボーダーM&A支援)を提供しました。
国分グループリリース:https://www.kokubu.co.jp/news/2024/detail/0805100000.html
PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000139201.html
東南アジアの建設・インフラ業界は、人口増加、都市化、脱炭素、製造業再編といった複合的な変化を背景に、新たな成長フェーズへと移行しています。これまでM&Aの対象は大手ゼネコンや施工業者が中心でしたが、近年は「施工後の運営(ファシリティマネジメント)」「高付加価値工事(内装・M&E)」「建設×テック(AI・SaaS)」といった付加価値の高い領域にシフトしつつあります。
シンガポールでは、グリーン建築や再開発に強みを持つ企業が注目されており、設計・施工・管理を一貫で提供するプレイヤーが評価されています。マレーシアやベトナムでは、DC建設やインフラ整備に伴うBIM対応企業との提携が進み、インドネシアやフィリピンでは、都市拡張や新首都建設を背景に施工技術や人材の供給が課題となっています。これにより、地域密着型のゼネコンや省人化技術を有するスタートアップにも投資機会が広がっています。
日本企業にとって、東南アジアでのM&Aは単なる施工受注の拡大ではなく、「現地対応力の獲得」や「成長領域へのレバレッジ」を可能にする戦略手段です。施工後の運営、スマート建築、再エネ対応など、これまで日本国内では活用しづらかった技術やノウハウを、東南アジア市場で活かすことができる時代になっています。