【2025年9月1日更新】シンガポール法人設立完全ガイド〜プロセス・必要書類・留意点・費用を徹底解説〜

シンガポールは島国国家であり、東南アジアの中で最も小さい国でです。また中国人、マレー人、インド人、ユーラシア人からなる多民族、多宗教社会で、教育の主要言語として英語と、各主要民族の母国語を持つバイリンガルが非常に多い特徴を持っています。

金融・貿易・ITを中心として、世界的に見ても高品質なビジネス環境が整備されており、「ワニを捕まえるならまず虎と仲良くなれ」と言われるほど、東南アジアでビジネスをするなら、まずシンガポールで信頼できるパートナーを探して、各国に展開するのが理想とされています。このことから、東南アジアの玄関口として、広く外資系企業の地域統括拠点や貿易拠点が設置されています。

こういった背景から、シンガポールで拠点を設立して、事業を行うことは税制的なメリットだけでなく、国際的なビジネスの展開において多くのメリットを提供します。本記事ではシンガポールの法人設立におけるプロセス、必要書類、留意点を網羅的かつ詳細に解説をします。

📘
シンガポールの概要

シンガポールの基本情報・統計情報は以下の通りとなります。

項目 内容 データ時点
建国1965年(マレーシアから独立)2025年9月時点
土地面積735.7k㎡(東京23区よりやや大きい)2025年9月時点
総人口603.697万人(うちシンガポール人は363.597万人、永住権者は544.90万人)2024年6月時点
総労働人口358.64万人2024年6月時点
外国人人口割合39.8%(永住権含む)2024年6月時点
通貨シンガポールドル(1SGD=約114.53円)2024年8月29日時点
GDPSGD 731,436百万(約84兆円)2024年
1人当たりGDPSGD 121,161(約1,380万円)2024年
失業率2.1%2025年6月時点
輸出額-物品SGD 779,066百万(約89兆円)2024年
輸入額-物品SGD 581,125百万(約66兆円)2024年
輸出額-サービスSGD 528,568百万(約60兆円)2024年
輸入額-サービスSGD 469,181百万(約53兆円)2024年
主要産業卸売(20%)、製造(17%)、金融(14%)、IT(6%)、小売(1%)2024年
民族中華系(75%)、マレー系(14%)、インド系(9%)2024年6月時点
言語英語(公用語)2025年9月時点
宗教仏教、イスラム教、キリスト教、ヒンズー教2025年9月時点
主要政党人民行動党(PAP)2025年9月時点
大統領ターマン・シャンムガラトナム大統領2025年9月時点
首相ローレンス・ウォン首相2024年5月時点
在留邦人32,565名2024年10月時点

なお、これらの統計情報については、シンガポール統計局のウェブサイトから取得が可能です。

https://www.singstat.gov.sg/

📘
シンガポール法人の設立
シンガポールの進出形態の比較

シンガポールでは特定の規制業種(メディア等)を除き、ほとんどの業種で外資100%出資が可能です。このため、外資規制のある他の東南アジア諸国とは異なり、多くの日系企業様が、進出形態として現地法人を選択しています

  駐在員事務所 支店 現地法人
位置づけ 日本企業の一部 日本企業の一部 独立した事業体
活動 情報収集 営業活動 営業活動
税金 税務申告
現地での納税:不要
日本での納税:必要
税務申告
現地での納税:必要
日本での納税:必要 ※
税務申告
現地での納税:必要
日本での納税:原則不要
メリット
日本本社の黒字がある場合
駐在員事務所の赤字と相殺可
メリット
日本本社の黒字がある場合
支店の赤字と相殺可
メリット
現地の税率(低税率)で課税
優遇税制の適用可
デメリット
デメリット
日本の税率(高税率)で課税
優遇税制の適用不可
デメリット
日本本社の黒字がある場合でも
現地法人の赤字と相殺不可
資金移動 資金の送金
制限なし
資金の送金
制限なし
資金の送金
名目が必要(貸付・資本金・売上)
資金の還流
制限なし
資金の還流
制限なし
資金の還流
名目が必要(配当)
法務リスク 本社が負う 本社が負う 現地法人が負う(本社は株主責任)

※現地納税分は、日本での税務申告時に外国税額控除の適用が可能

コラム
現地法人(子会社)による進出が一般的な理由を多面的に分析してみる

[一般論]
アジア地域における営業拠点や統括拠点として、権限と裁量を付与し、独立して事業運営を行う場合には、現地法人(子会社形態)が一般的です。

[コストの観点]
シンガポールは、外資規制が緩いため、日本本社が現地子会社の100%の株式が保有可能な点に加えて、現地法人の場合は、タックスヘイブン税制など過度な節税目的で有る場合を除き、シンガポールの低税率と、多数の租税条約の恩恵を享受することが可能です。このため、シンガポール運営では税金も法人運営コストの一部として捉え、他のアジア国と比べて高水準となる他のコスト(人件費や賃料等)とトータルで見て、利益を出す経営スタイルが一般的であるといえます。支店の場合は、これらの高コストに加えて、最終的に日本の高税率が課されるため、拠点単体として利益を出すことが難しくなるといった点も現地法人が採用される一つの要素です。

[M&Aの観点]
M&Aを通じてローカル企業を買収し、シンガポールから管理監督を行う場合には、新設または既存の現地法人(子会社)が、ローカル企業の資本の100%を持つことが、直接的な資本関係がある先に報告を行うことになるため、経営管理上も最も有効な手立てであると考えられます。反対に支店形態の場合は、あくまでローカル企業の株主は日本本社となるため、シンガポール支店からの管理監督が資本構造上働きにくい可能性があります。

[人材採用の観点]
人材採用の観点でも現地法人の方がどちらかといえば有利といえます。この理由は、アジア各国の日系企業ではマネジメントポジションはあくまで日本人駐在員であり、ローカルスタッフが同ポジションに昇格するのは難しい傾向にあることは自明です(「ガラスの天井」と呼ばれています)。支店の場合は、より色濃く昇格の難しさが強調されてしまうため、一般的により良い人材が収集しづらいという点が挙げられます。

[法令遵守の観点]
コンプライアンス面でいえば、支店は日本本社の一部でありながら、シンガポールでの法的事業体の性格も併せ持つため、両国の規制対応に注視しながら運営を行う必要があり、シンガポールの規制に従えば良い現地法人の方がグループ全体のコンプライアンス管理面での工数は少なくなり、機会コストの削減が可能になるという点が挙げられます。

シンガポールの現地法人の比較

日系企業の場合、シンガポールの現地法人は非公開会社が一般的です。非公開会社は、株主の構成に基づき、EPCと通常のPte Ltdの2つに分類されます

分類 非公開会社
(Private Company Limited by Shares)
公開会社
(Public Company)
項目 EPC - Exempt Private Company Pte Ltd – Private Company Limited by Shares Public Company Limited by Shares (Ltd) Public Company Limited by Guarantee (CLG)
株主数・会員数 20名以下の個人株主 50名以下の個人・法人株主 制限なし 会員2名以上
会社法人の資本金要件 最低 S$1 最低 S$1 最低 S$1
(上場は規制あり)
要件なし
主な特徴・要点 年次監査免除など簡易制度あり
中小企業やスタートアップに最適
幅広い事業に対応する標準的な株式会社 公開会社。SGX上場可能。
厳格な規制
非営利法人。慈善団体や教育機関に適する
シンガポールの現地法人設立の流れ

現地法人の設立については以下のようなステップがあります。

法人設立の流れ
  • 法人設立条件の決定
  • 必要書類の準備
  • 法人名の申請
  • 法人の設立申請
  • 第1回 取締役決議
  • 法人設立完了
シンガポール法人 設立条件の決定

法人設立条件の決定においては、いくつか留意点があります。ここでは、特に日本企業の法人設立においてポイントになりやすい、会社名、株主、資本金、居住取締役、秘書役、事業内容、決算月、登記住所、定款について、解説します。

【会社名】

ポイント:会社名について、シンガポールでは日本と異なり、設立法人商号の重複登録は認められていない

現地法人の場合は、日本本社と共通の名前を使用してもしなくても良く、自由に名称をつけることが可能です。ただし、シンガポールで他に同一会社名(もしくはかなり重複のある会社名)の登記が先にあった場合等は登記することができないので、法人設立手続きの前にまずその法人名が使用可能かを調べ、その名前をオンラインで予約しておく必要があります。

またACRA(企業会計庁)の定めるルールでは、「The」「Limited」「Company」「and Company」「Corporation」「Incorporated」「Asia」「Asia Pacific」「International」「Singapore」「South Asia」「South East Asia」「Worldwide」などを商号前後に追加することや、同一語で複数形(例: Partner と Partnersなど)を用いることは「類似商号」となり、登録申請が却下される場合があります。加えて、「Bank」「Finance」「Law」「Media」などの規制業種で使用される名称を登録する場合、ACRA以外の外部機関の承認が必要となるため、時間がかかる可能性があります。

【株主】

ポイント:現地法人の場合、法人または個人のいずれも株主になることが可能である

シンガポールは特定の規制業種(メディア等)を除き外資規制がないため、基本的には外資100%での出資が可能です。株主の身分を証明するものとして、法人株主の場合は、その資本構成により様々ですが、履歴事項全部証明書の英訳(翻訳会社の翻訳証明+公証付き)、定款英訳(翻訳会社の翻訳証明+公証付き)、株主構成を確認できる書類(日本企業の場合は財務諸表の別表その2が該当)、親会社個人株主(親会社の株式または議決権を25%超所有する個人)のパスポートコピー、個人株主の場合はパスポート+住民票が必要となります。法人株主となる場合は書類の準備・英訳に時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールの設定が必要となります。

法人株主の注意点として、グループ全体で、①SGD10,000,000超の売上、②SGD10,000,000超の総資産、③50名超を雇用の3つの要件のうち、2つ以上に該当すると現地法人が監査を受ける義務が発生します。

コラム
株式の保有比率により出来ること

株式の保有比率により出来ること

【資本金】

ポイント:最低資本金制度は無く、1シンガポールドルの資本金から法人設立が可能である

ただし、就労ビザ取得や法人銀行口座開設の観点で、ビジネスレコードの無い新規設立法人の場合は、資本金が唯一の事業実態を説明する材料となります。このため、手続をスムーズに進めるために、事業コストを賄える十分な資本金を設定することが必要となります。また、就労ビザ取得の際に法人銀行口座の残高証明を求められるケースが多く、資本の払込が出来ていない場合には、ビザ申請が却下される場合があります。シンガポールでは増資手続が容易なため、通常日系企業は、発行済資本=払込資本とし、追加の財務援助が必要であれば、増資(この場合も発行済資本=払込資本)を行うケースが一般的です。  

【居住取締役】

ポイント:取締役(Director)については、18歳以上であれば国籍関係なく就任することが可能である。

従来、就労ビザ保持者はシンガポールで2社以上の役員の兼務が可能であったが、2016年11月以降、原則として禁止となりました。ただし、シンガポール子会社の役員が、100%孫会社の役員を兼務するような場合には、シンガポールにおける外個人の取締役兼務制度(Letter of Concent for Secondary Directorship)と言われ、政府(人材開発省)に個別申請を行い許可を得れば役員の兼務が可能となっています。

取締役は1名以上登記されていれば人数の上限は原則としてありません。ただし、会社法上(会社法第145条(1) 項)、取締役の中に必ず1人はシンガポールの居住者を含む必要があります(居住取締役の設置義務)。これは就労ビザ(Employment pass, EP) を取得してシンガポールに居住している日本人駐在員でも可能です(Sパス保持者やDP保持者は就任不可となります)。ただし、EPを取得するには現地法人がスポンサーとなる必要がありますが、現地法人設立をするために、先に現地居住取締役を登録する必要があるため、設立時点では、会計事務所等が提供している名目取締役サービスを利用するか、既に進出している現地グループ会社の役員に一時的に役員就任をしてもらい、日本人駐在員のEP取得後に登記内容を更新する(=名目取締役またはグループ会社の役員を除名し、日本人駐在員の登記を行う)ことが必要となります。

【秘書役】

ポイント:「秘書役」は日本企業で意味するところの秘書とは異なり、会社法第171条(1) 項において、現地法人で任命が義務付けされている役職である 。

その役割は広範囲にわたり、外資系企業が多いシンガポールにおいて、会社登記簿の記録維持、株主総会、取締役会の通知&議事録作成、法律上の必要書類の管理、その他現地法人がコンプライアンスに従っていることを確認する責任を有しています。法人設立のタイミング(正確には6か月以内)で任命・登記しなければならず、且つシンガポールに居住している必要があるため、多くの会計事務所等が秘書役サービスを提供しています。なお取締役が1名の場合、その役員は秘書役を兼任することが禁じられています。

【事業内容】

ポイント:日本とは異なり、シンガポールでは、登記上は、会社の事業内容はシンガポール政府が定めるリストから2つまで選んで設定することしかできない

事業内容は、シンガポール標準産業分類 - Singapore Standard Industrial Classification (SSIC) で示されているコードに従い、2つまで設定することが可能です。法人税申告における損金算入可否の判断、就労ビザ申請におけるCOMPASS制度の分類セクターなど、どれを選択するかにより、事業運営に影響を及ぼす可能性があるため、専門家の判断を仰ぎ、慎重に判断すべき項目といえます。

【決算月】

ポイント:日本と同様に、任意の月を決算月と定めることが可能である

決算月については、自由に決定可能です。準拠する会計基準にもよりますが、例えば3月決算の日本親会社がある場合には、シンガポール子会社は12月決算とするケースが多く見受けられます。ただし、海外事業の規模が大きい場合には、決算月を日本親会社と統一することが、監査法人から要求されるケースがあったり、どの月を選択するかで、優遇される税額控除の期間が短くなったりしますので、専門家の判断を仰ぎ、慎重に判断すべき項目といえます。

【登記住所】

ポイント:会計事務所等が提供しているバーチャルオフィス、シェアオフィス、自社オフィスの選択肢がある

就労ビザを取得するにあたって(複数名のビザを出す場合)オフィスの実態があるかどうかを当局から調査される場合があります。過去において、オフィスの賃貸契約書だけでなく、写真のエントランスのロゴ入りの写真、専有スペースの写真といったものも求められた事例があります。また、昨今は銀行口座の開設において、事業の実態を厳しく調査される傾向にあり、自宅や会計事務所を登記住所としている場合は、実態の説明ができず、開設ができないケースが多発しています。

せっかくの海外進出の拠点設立で、「最初の手出しはミニマムにしよう」という意思決定をしたばかりに、法人は設立できたけれど、就労ビザが下りず、法人銀行口座が開けず、結果、オフィスや住居の賃貸もできず、何もできずに撤退となった事例もあります。

加えて、シンガポールの地場や日系の大手企業を顧客として取引する場合にも注意が必要です。大手企業から、そもそも自社オフィスが無かったり、固定電話が無かったりする企業とは、社内のコンプライアンス上、取引できないというケースが多いです。

【定款】

ポイント:現地法人の場合は、シンガポール会社法に則った定款を用意する必要がある

多くの場合は、法人設立を依頼した会計事務所側で一般的な雛形を持っているので、それらを用いる場合が多いです。

前提として、日本の会社法は「シビルロー形式」であるのに対し、シンガポールの会社法は英国会社法をベースにした「コモンロー形式」の上に成り立っています。すなわち、日本会社法は、国会で制定される法律で、細かく決まっており、判例は(参照されるが)法律の一部を構成しないのに対し、シンガポール会社法は、法律は最低限のみ定め、後は判例を法律の一部として使っていく形となっています。このため、定款に企業運営上の特殊な条項を追加する場合や、優先株主の権利を詳細に決定する際には、利害関係者の合意があれば、柔軟性のあるシンガポール法の下では基本的にカスタマイズが可能となります。

経験上、日本企業の100%子会社としてシンガポール子会社を設立する場合は、株主は日本の親会社だけなので、標準定款でも問題ありません。何か必要なケースがあれば事後的に定款の変更も可能です。一方で、①スタートアップ企業で、シンガポール現地法人が資金調達の受け皿となり、外部の投資家がいる場合や、②M&A取引を通じて現地企業の100%未満の買収や出資を行う場合や、③現地企業との合弁会社(ジョイントベンチャー)を組成する場合には、利害関係者との契約だけでなく、定款でもその権利義務関係をしっかりと定めておくことが必要です。これらを進めるに際しては、こういった金融取引に詳しいコーポレート・ファイナンシャル・アドバイザーや、シンガポール法やその判例に詳しい弁護士事務所に相談をしながら行うことが望ましいと考えられます。

シンガポール法人 必要書類

法人設立には多くの書類が必要です。特にシンガポールに法人を設立する際には、法人登記に関連した書類として、会社概要、取締役や株主の情報、資本金の証明書が求められます。各書類に記載されている情報の正確性や最新性を確認することが不可欠となり、設立手続きのスムーズな進行のためにも万全な準備が求められます。
申請手続きは通常、会計事務所の秘書役がシンガポールの会計企業規制庁(ACRA)を通じて行い、オンラインで手続きを進めることが可能です。このプロセスを通じて法人設立が完了すると、正式に法人としての地位が与えられ、登記簿謄本(Bizfile)が発行されます。

シンガポール法人の設立に必要な書類は、その株主が法人か個人か、法人の場合の上場・非上場区分、親会社法人の株主がさらに法人である場合といった株主構造の複雑さにより大きく異なります。通常は以下のような書類が必要となります。

■法人株主■ ■個人株主■
  1. シンガポール法人設立申込書
  2. 履歴事項全部証明書原本
  3. 定款コピー
  4. 株主構成が証明できる公的な書類
  5. 親会社とシンガポール法人の役員・株主の下記資料
    • パスポートコピー(カラー)
    • 個人の居住地が確認可能な書類
    • 上記の個人の履歴書
  1. シンガポール法人設立申込書
  2. 個人のパスポートコピー(カラー)
  3. 個人の居住地が確認可能な書類
  4. 役員・株主となる個人の履歴書
※ 現地役員・秘書役を1名、SG人、PR保持者、就労ビザ保持者でSGに通常居住していることが必要(S pass/DPは役員不可)
※ 就労ビザ保持者は複数企業の役員を兼務することは例外的な場合を除きできない(別途、政府の許可が必要)
※ 秘書役の業務内容:財務書類や定款の変更等の政府登記業務、総会・役会関連書類作成業務
※ 提出書類が日本語の場合は、英訳と公証人役場での証明が必要
シンガポール法人名の申請

会社名の申請は、シンガポールに法人を設立する際の重要なプロセスの一部です。使用したい会社名が他の法人で既に使用されていないかを事前に確認することが不可欠です。これには、競合を避けるだけでなく、スムーズな設立プロセスを進めるための準備も含まれます。事前確認にはACRA(シンガポール企業規制庁)のウェブサイトを活用し、会社名の予約を行ったうえで、その後の申請手続きに進むことがポイントです。
<ACRA 会社名登録>
https://www.acra.gov.sg/how-to-guides/before-you-start/reserving-a-business-name
通常、会社名の申請結果は1〜3営業日以内に返ってきます。ただし、特定の業種においては、法的な規制や追加の確認が必要となるため、承認に時間がかかることがあります。これには、金融業や教育業などの規制が厳しい業種が含まれる場合があります。そのため、候補名を複数準備しておくことをお勧めします。これにより、予期せぬ状況でも対応がしやすくなり、スムーズにシンガポールで法人設立を進めることが可能になります。

シンガポール法人の設立申請

会社の定款と取締役宣誓書(Form 45)を作成し、取締役が署名をします。その後ACRAにてオンライン申請を行うと、Biz Fileと呼ばれる会社の登記簿が発行されます。

第1回 取締役決議

シンガポールで会社を設立すると、通常は設立から1か月以内に、最初の取締役決議(First Director’s Resolution)を行うのが一般的です。これは、会社設立後の最初の正式な意思決定であり、会社運営に必要な基本事項を承認する手続きとなります。

最初の取締役会決議で承認される典型的な事項は以下の通りです。

1. 取締役会の議長(Chairman)の選任

2. 会社秘書役(Company Secretary)の任命(設立後6か月以内に必須)

3. 会社の登録住所(Registered Office Address)の承認

4. 銀行口座開設の承認(署名権者の指定を含む)

5. 株式発行・株主名簿の確認(設立時発行株式と株主の確認)

6. 会計年度末(FYE: Financial Year End)の設定

7. 監査人(Auditor)の任命(監査義務がある場合のみ)

📘
シンガポールの法人の設立費用

シンガポールに法人を設立する際には、さまざまな費用が発生します。これらの費用を正確に把握することは、事業計画を効率的に立てるうえで重要であり、資金調達を円滑に進めるための鍵となります。一般的な法人設立費用としては、会社登録に伴う手数料や必要書類の作成費用などが挙げられます。

加えて、シンガポールでは法人設立時に資本金に相当する資金を準備する必要があるため、これも全体的な予算計画に含めることが求められます。さらに、法人設立を終えた後も、運営に関連する定期的な経費が発生する点に留意する必要があります。税務申告、年次報告書の提出にかかる費用、従業員に対する給与関連コスト、そしてオフィスの賃料など、運営上必要な継続的支出は多岐にわたります。

こうしたキャッシュ・フローやP/L関連のコストを見込んで計画を立てることで、シンガポールにおける法人設立後のビジネス運営をスムーズに進めることが可能となります。シンガポールでビジネスを成功させるためには、初期費用だけでなく、運営に必要な費用も考慮に入れることが不可欠です。

法人設立にかかる一般的な費用を以下にまとめています。

項目 内容 相場(SGD)
法人設立に係る専門家報酬 設立手続き代行、定款作成、各種申請、資本政策や税務戦略のコンサルティングの有無や専門性により価格が変動 S$500〜15,000
ACRA行政手数料 会社名申請 + 登録 + 証明 S$500~600
会社秘書サービス 年次申告、株主・取締役台帳の維持 S$300〜2,000/年
登録住所サービス 会社住所の提供 S$300〜2,000/年
翻訳費用 各種書類(日本語→英語)の翻訳 書類の数量による
公証人費用 公証証明書、Certified True Copy 等 書類の数量による
資本金払込に係る送金手数料 日本からシンガポールへの国際送金手数料(為替差損益含まず) S$50〜100程度
銀行口座開設関連費用 銀行が求める追加書類・公証 など S$300〜1,000
業種別ライセンス申請料 飲食・金融・保険等の許認可業種 業種により異なる
役員名義貸しサービス 居住者取締役の代理提供 S$3,000〜20,000/年
その他費用 書類郵送・急ぎ料金など ケースバイケース
📘
シンガポール法人設立後の手続 - 就労ビザの申請 -

シンガポール法人の設立後は、就労ビザの取得が重要なステップとなります。特に経営者や駐在員がシンガポールに居住して業務を行うためには、適切な就労ビザを取得することが不可欠です。シンガポールでのビザの申請プロセスは場合によっては複雑で、事前に必要な事項を把握して準備を進めることが成功の鍵となります。
ビザの取得手続きでは、申請者が必要とする書類を整えたうえで、適切な政府機関へ提出することが求められます。このプロセスは、審査や処理に数週間を要する場合が多いため、スケジュールを考慮して早めに申請を開始することが推奨されます。また、シンガポールには複数のビザの種類があり、それぞれ要件や利用目的が異なるため、自身が必要とするビザをどれにするか慎重に検討することが不可欠です。さらに、シンガポールに法人を設立する過程で、ビザの申請はスムーズな事業運営を可能にするための重要な要素の一つといえます。適切なビザの選定とタイムリーな申請を行うことで、法人設立後の活動を円滑に進める準備が整うでしょう。

就労ビザの申請と具体的な手続については、以下でシンガポールの就労ビザ大全としてまとめています。こちらもぜひご参照ください。

📘
シンガポール法人設立後の手続 - 法人銀行口座の開設 -

シンガポール法人設立後、銀行口座を開設することが重要な次のステップとなります。資本金を入金したり、日々の事業取引を円滑に進めたりするためには、現地の銀行での口座開設が不可欠です。シンガポールでは、日系銀行、地場銀行、グローバルな金融機関など、多岐にわたる金融機関から選択することが可能で、それぞれに異なるメリットがあります。
銀行口座を開設する際には必要書類の準備が鍵を握ります。登記書類、株主や取締役に関する情報、または事業計画書など、求められる資料を事前に確認し、漏れなく揃えることが重要です。最近では口座開設に時間を要するケースが増加しており、余裕を持ったスケジュールの立案が求められます。
さらに、銀行ごとに提供されるサービス内容や手数料体系、オンラインバンキングの利便性などに差があるため、自社の事業ニーズや運営方針に最適な銀行を選ぶことが成功のカギとなります。シンガポールに法人を設立する際には、このプロセスを円滑に進めることでスムーズな事業運営が可能になります。

📘
シンガポール法人設立後の手続 - 商標登録 -

シンガポールで事業を展開するにあたり、商標登録はブランドを保護し、長期的な事業運営を支えるための重要なステップの一つです。商標は、商品やサービスの信用や信頼を担保する基盤となり、模倣や不正使用から自社の知的財産を守る役割を果たします。

商標登録のプロセスは、まず事業に適した商標を決定することから始まります。その後、既存の登録商標との重複を避けるために簡易的な商標調査を行い、問題がなければ正式な出願手続きに進みます。出願に際しては、シンガポール知的財産庁(IPOS)に所定の登録申請料を支払う必要があります。提出された商標はIPOSによって審査が行われ、内容に問題がなければ公告・登録の流れへと進みます。審査や公告の段階では一定の期間を要するため、事業開始に合わせて早めに手続きを行うことが推奨されます。最終的に登録が完了すると、商標権は一定期間保護され、更新により継続的に維持することが可能です。

商標登録を適切なタイミングで進めることで、自社ブランドを確実に守りながら、シンガポール市場での事業展開を安定的に進める準備が整うでしょう。


<東南アジアへの海外展開をお考えの企業様へ>

弊社では、シンガポールをはじめとする東南アジア諸国における海外進出支援サービスを提供しております。拠点設立や会計業務については、シンガポール・ベトナムにおいて10年間超の経験を持つ、日本人会計士集団が現地側に常駐しており、ご要望に寄り添い、柔軟かつ実務的なサポートをさせていただきます。東南アジアでの確かな一歩を踏み出すために、どうぞお気軽にご相談ください。

前へ
前へ

コンプライアンスとは?定義・ガバナンスとの違い・順守のための内部統制の構築までわかりやすく徹底解説

次へ
次へ

【2025年シンガポール進出ガイド完全版】 〜メリット・デメリット・最新市場動向総まとめ〜